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演芸爛熟期 再解釈と復活の狼煙  朝日新聞読書面書評から

評者: サンキュータツオ / 朝⽇新聞掲載:2018年09月22日
やっぱ志ん生だな! 著者:ビートたけし 出版社:フィルムアート社 ジャンル:芸術・アート

ISBN: 9784845917082
発売⽇: 2018/06/25
サイズ: 19cm/164p

神田松之丞講談入門 著者:神田松之丞 出版社:河出書房新社 ジャンル:芸術・アート

ISBN: 9784309279589
発売⽇: 2018/08/01
サイズ: 19cm/287p 図版16p

やっぱ志ん生だな! [著]ビートたけし/神田松之丞 講談入門 [著]神田松之丞

 平成演芸大爛熟期。東西合わせ落語家の数は千に迫ると言われ、公演数はひと月で一万に近い。落語史上、もっとも落語家と落語会の多い時代を迎えている。雲田はるこによるコミック原作の『昭和元禄落語心中』がアニメ化され、この秋からはドラマ化もされる。さらには来年の大河ドラマ『いだてん』では、東京オリンピック前の東京を舞台に、ビートたけしが五代目古今亭志ん生を演じる。ますます演芸熱は高まっていくと思われる。
 『やっぱ志ん生だな!』は、そんなたけしさんによる志ん生論、とみせかけての芸談という読み方がもっとも面白いと思う。演芸場で育ったたけしさんが落語をどう消化し、志ん生という未曽有の才能をどう受け止めているのか。
 数多の落語関連本を読んできた私としては、落語を語る「言葉」が新鮮で興奮する。何代目のだれそれがこう演じていたとか、この噺の元ネタは江戸時代のこの本に~といった語り方ではなく、〈志ん生さんの『富久』は、映画的でもある。撮るべきカットを撮って、丁寧につないでいる感じがする。言葉だけなのに、どの画で寄って、どの画で引くのかが的確なんだ。〉と、映画監督ならではの視点で語ったり。漫才をやっている経験を活かして落語を再解釈し、自身で落語を演じるときは四コマ的にあらすじを頭に入れておいて、アドリブをこうやって入れてみた、といったプレイヤーならではの視点も。発見の連続である。
 一方、落語家が飽和状態を迎えるなかで、苦難の時代を迎えていたのは、講談である。過去には落語以上の隆盛を極めた芸能であるが、昭和43年には一龍斎貞鳳『講談師ただいま24人』が著され、もはや絶滅の危機にあった。そこに突如として現れたスターが現在?歳の神田松之丞である。現在、演芸界でチケットがもっとも取りにくい松之丞さんが、講談には入門本すらないという状況を憂え上梓、講談復活の狼煙となりそうだ。落語のように笑わせる芸ではなく、実在した人間や出来事を扱って人間の本質に迫る講談。初心者が抱く疑問や質問に応えるQ&Aから入り、自分の持ちネタを中心として各演目の勘所の説明や由来にも触れ、最良の入門本となっている。
 ドラマ好きや小説好きにはぜひ講談を聴いてもらいたい。連続物なので、大河ドラマや朝ドラのように、一話ずつハイライトがありしかも続きがある。人間国宝・一龍斎貞水との対談はまさに芸魂継承、貴重な資料でもある。
 二冊とも、知識とバランスのあるインタビュアーがまとめたのも見事。待ってました!の二冊だ。
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 びーと・たけし 1947年生まれ。コメディアン、俳優、映画監督、作家。著書に『アナログ』など▽かんだ・まつのじょう 83年生まれ。講談師。2007年三代目神田松鯉に入門、12年二つ目昇進。