- もっと知りたい東山魁夷 生涯と作品 [著]尾崎正明監修、鶴見香織著(東京美術、2008年)
- 風景との対話 [著]東山魁夷(新潮社、1967年)
- 唐招提寺への道 [著]根立研介(新潮社、1975年)
- 東山魁夷 ART BOX 美の眼差し[著]野地耕一郎、東山すみ企画・監修(講談社、2014年)
(1)「もっと知りたい東山魁夷 生涯と作品」の著者、鶴見香織さんは、東京国立近代美術館の研究員です。東京国立近代美術館は東山魁夷の代表作「道」や「残照」などを所蔵している美術館。長野県信濃美術館 東山魁夷館と並んで、日本の中で最も東山魁夷の研究を行っている美術館です。
「この本は東山魁夷を知るための入門編ともいえる一冊です。時系列で読んでも、興味を持った作品の部分から読んでもわかりやすく、どなたにもおすすめしたいですね。それぞれの章にミニコラムがあるのですが、魁夷の人となりがわかるとても細かいエピソードが満載です。よくここまで調べたな…と思ってしまうほどです。東京国立近代美術館の歴代の研究の積み重ねの成果が感じられます」
(2)は東山魁夷自身が執筆した「風景との対話」。1967年に初版が発行されて以来50刷以上重版され、今まで読まれ続けています。
「東山魁夷は文章を非常にたくさん書く画家でした。通常、画家の方は直感や感性に偏りがちですが、魁夷の場合はどう感じたか、としっかり言葉で説明する文章と作品が両輪となっていました。また、通常は自分を大きく見せようと誇大表現が入ったり、制作については手の内を明かさない人が多いですが、東山の場合は制作の秘密もあますところなく執筆されています。この巻では画家を本職としたものの、なかなか芽が出なかった魁夷が戦中に『風景開眼』したところから、今回の展覧会を構成する中心的な作品を描く過程について書かれています。私も展覧会を開催するに当たって、この本をとにかく読み込みました」
(3)「唐招提寺への道」は同じく、東山魁夷執筆による1冊。「唐招提寺御影堂障壁画」を描くために、彼が何を見て、何を考えたのかが200ページ以上にわたって綴られています。
「御影堂の障壁画を依頼された魁夷は、まず制作するかどうかについて非常に迷い、鑑真和上像の一般公開が行われている際に、観客に混ざってこっそりと見に行ったそうです。そういった制作前の逡巡から、実際に10年をかけて作品を描いていく、その過程を追体験できる1冊です。私もこの展覧会にあたり、たくさんの方にお話を聞いたのですが、魁夷はとても腰の低い方で、常に真摯な姿勢を忘れなかった人なのだそうです。身につけた「自分流」を押し通すことはせず、とにかく調べて、知って、一からすべて見直して作品を作り出す、といった彼のスタイルを知ることができます。
東京会場では、唐招提寺の御影堂の配置をほぼ忠実に再現しています。ぐるりと自然の風景に囲まれたような感覚を味わえると思います。ぜひ作品の世界を堪能してください」
(4)魁夷を生涯に渡って支え続けた妻、東山すみ氏企画・監修、野地耕一郎氏執筆の「東山魁夷 ART BOX 美の眼差し」。魁夷の作品と、魁夷が世界中で集めたコレクションがほぼ半分ずつビジュアルで紹介されています。
「東山魁夷の集めたコレクションは、現状では全面的には公開されておらず、この本ぐらいでしか知る手立てがありません。古代エジプトや古代ギリシャ・ローマ、中国や朝鮮の古美術などさまざまな地域の工芸品や銅器などを収集した魁夷。もちろん日本の古代から近代の美術品なども含まれます。これらのコレクションを見ることで、彼が創作の際に何を参考にして、どういうものを目指していたか、種明かしのように楽しめると思います。できれば、展覧会で実際に作品を見た後にこの本を読んだほうが『なるほど』という納得感が増すと思いますよ」
東山魁夷の作品は、色使いの美しさもさることながら、シンプルなデザイン性も目を引きます。「そもそも日本画というものは余計な表現をそぎ落としていくものですが、魁夷は特にその部分を突き詰めて行ったようにも思えます。作品の普遍的な表現は、古い・新しいにとらわれず、老若男女誰でも感じ、入っていけるものだと思います。ぜひ実際に作品を見てみてください」と小倉さんは語ります。
編集部のおすすめ
川端康成と東山魁夷 響きあう美の世界[著]川端香男里・東山すみ監修(求龍堂、2006年)
同時代の多くの文人との交流があった東山魁夷ですが、特に川端康成との交流は深く、京都を描いた「京洛四季」シリーズは川端の示唆により生まれたとも言われています。この本では、川端の死まで17年近く続いた往復書簡と、書簡の中で触れられた川端康成所蔵の国宝や東山魁夷の作品が紹介されています。2人の知られざる素顔をのぞける一冊です。