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「土 地球最後のナゾ」書評 人類を養う足元の未知の世界

評者: 黒沢大陸 / 朝⽇新聞掲載:2018年10月20日
土 地球最後のナゾ 100億人を養う土壌を求めて (光文社新書) 著者:藤井一至 出版社:光文社 ジャンル:新書・選書・ブックレット

ISBN: 9784334043681
発売⽇: 2018/08/18
サイズ: 18cm/219p

土 地球最後のナゾ 100億人を養う土壌を求めて [著]黒沢大陸

 土は地味、その研究者も。「業務として土を掘っているにもかかわらず通報され、職務質問を受けることすらある」。評者が学んだ地学でも似た話を耳にした。野外調査中に怪しまれた教授は「この石の中に目に見えない小さな化石が……」と有孔虫化石の説明を始めると、今度は哀れみの目が向けられたとこぼした。地を歩き回る地味な研究は理解されにくい。
 多くの人類を養える豊かな土壌を求め、「たった12種類」に分類できる世界の土をめぐる著者の探索。同期生がさっそうと外国に調査へ向かうなか、スコップ1本を手に大学の裏山から始まる。地味な研究は予算を獲得しにくい。
 子どもの絵で土は何色に塗られるか。黒か焦げ茶か灰色か。アフリカの中央部では赤く、スウェーデンでは白く塗るという。岩石やその場所の気候で、できる土は異なる。土の見た目の意味の深さが語られる。
 岩石が風化して砂や粘土となり、生き物の働きによって、農業が営める土壌にとなっていく。腐植は複雑でわからないことが多く「土の機能を工場で再現できない理由もここにある」という。宇宙でも深海でもなく、すぐ足元に未知の世界が広がっていた。
 ふんだんにカラー写真を使って12種類の土を見せ、ミミズの存在や石灰散布の有無による違いもわかりやすい。シンプルなイラストは養分を蓄える土壌ができる仕組みの理解を助ける。
 専門的な説明の合間に、調査への情熱や体験をユーモラスにつづり、その書きぶりは、多くの人に少しでも興味を持ってもらおうとする土への愛を感じる。
 かつての地学の野外調査では土壌も雑草も邪魔者、手にした岩石試料が風化していると、分析には適さず落胆した。だが、それは年月をかけて土壌ができる過程と結果だった。今後、生い茂った夏草を見る目も変わりそうだ。土地をめぐる争い、食糧や環境問題の視点からも考えさせる本だ。
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 ふじい・かずみち 1981年生まれ。森林研究・整備機構森林総合研究所主任研究員。著書に『大地の五億年』など。