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誰もが隠し得る陰の感情に光 姫野カオルコさん「彼女は頭が悪いから」

姫野カオルコさん

 姫野カオルコさんの新著『彼女は頭が悪いから』(文芸春秋)は、2年前に実際に起こった大学生らによる性的暴行事件をモチーフにした書き下ろしだ。誰しもが持ちうる内なる感情に光を当てた。

 主人公の一人は、きょうだい思いの平凡な家庭の長女で、県立高校を出て女子大に進学した神立(かんだつ)美咲。そしてもう一人は、官僚の父を持つエリート家庭に育った東京大学の学生、竹内つばさ。この2人が偶然出会い、恋に落ちるが、様々な要因が重なり、強制わいせつ事件へと至る。

 着想を得たのは、2016年に起きた東大生による強制わいせつ事件だ。「学生のグループが女性に性的な嫌がらせをするという事件は過去にもいくつかありましたが、『これは、何かが違う』と思いました」

 自身のなかに渦巻く疑問に答えるべく、事件を取材した記者に話を聞いたり、裁判を傍聴したりした。ただ、当初は小説にしようという考えはなかった。直接のきっかけとなったのは、1970年代の青春小説を書いたことだったという。

 「青春時代は、さわやかで楽しい時期である一方、誰かをねたんだり、憎んだりする感情が高まる時期。陰の部分に気持ちが向きました」

 本作は「非さわやか100%」をうたう。学歴、家柄、容姿。そんな物差しではかられる人間関係に、徐々に胸が苦しくなる。「誰しも、ひそかに優越感を抱いていることを自慢したいという気持ちを持っているはず。隠してきた内面を、照らされたような気持ちになると思います」

 実在の加害者や被害者のことを描くのではなく、全ての人に思いあたる感情を物語として構築し、青春の側面を描き出そうと試みた。ただ、事件に関しては違和感もあったという。「『これくらいでやめておこう』という限度調節が、なぜできなかったんだろう、と」

 事件後に非難されたのは、被害者の美咲だった。ネット上で「勘違い女」「バカ大学のおまえが逮捕されたほうが日本に有益」など、汚い言葉で中傷される。現実社会でも同様のことが起きている。姫野さんは、そうしたネット上の言葉を「銃と同じくらいの凶器」だと言う。

 「自分が社会のなかでどう映っているのか、銃を撃っている時のように忘れているのではないでしょうか」(宮田裕介)=朝日新聞2018年10月24日掲載