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「ドラガイ」書評 気づかれぬ才能が唯一無二に

評者: サンキュータツオ / 朝⽇新聞掲載:2018年11月10日
ドラガイ ドラフト外入団選手たち 著者:田崎 健太 出版社:カンゼン ジャンル:スポーツ

ISBN: 9784862554826
発売⽇:
サイズ: 20cm/271p

ドラガイ [著]田崎健太

 どの業界にも存在する、だれの目にも明らかな才能と、プロでも見抜くのが難しい才能。
 たとえば野球でいえば、ドラフト上位で指名がかかる選手は前者であり、いまでは育成選手やその昔「ドラフト外」=ドラガイと呼ばれた選手が後者である。本書は、ドラフト一位で指名された選手たちの人生を追った『ドライチ』の著者による、ドラフト外の選手たちのドキュメント。横浜で二千本安打を達成した石井琢朗は、投手として球団に入ったもののすぐに野手に転向して人生の勝負に出た。奄美大島で育った亀山努は、甲子園に出場すらしていないがタイガースに入団。常に後はないと思って休養せず全力プレーを続けた。島根育ちの大野豊は、高校卒業後、信用組合の軟式野球を経て、はじめてプロ野球選手になりたい自分の気持ちに気づく。紙幣を数え、営業で外回りを続けているうちに、なにかに本気に取り組んだことのない人生を振り返る。そうして広島の入団テストへ。
 期待をされていない、気づかれていない。それでも唯一無二の存在になった。巨人の石毛、西武の松沼兄弟、ヤクルトの団野村といった6章からなる元プロ野球選手の生き方の記録。この人たちに「成功する確率」なんて言葉は意味がない。各章の配列に「巡りあわせ」を感じる人間交差点のような構成にも唸る。
 大野は語る。「時間を掛けて少しずつ大切なことに気がついたり、自分の進むべき方向を見つけていった。期待されてプロに入っていれば、そんな時間は与えられなかったかもしれない。大したピッチャーじゃなかったから、壁を乗り越えるきっかけを見つける時間があったんですよ」
 選手ひとりひとりの幼少期の環境から試合の記録までをつぶさに追い、貴重な証言を引き出した筆者の取材には脱帽。すべての業界のドラガイにエールを。読書家の中日ドライチの根尾くんも読んだだろうか。
    ◇
 たざき・けんた 1968年生まれ。ノンフィクション作家。『W杯に群がる男たち』『球童 伊良部秀輝伝』など。