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震えながら楽しめる怪作 志駕晃「スマホを落としただけなのに」

 スマホなしでは一日も生きられない。そんな人が増えている。とくに若い世代は、人づき合いも調べものもすべてスマホでこなす。
 しかし、考えてみれば恐ろしい。自分のほとんど全情報が、あのノートより小さな機械に入っているのだ。しかも、その情報の多くはネット上でも保管されており、一歩間違えれば多くの人にのぞかれてしまう危険性もある。ちょっとした悪知恵の持ち主がいれば、さまざまないたずらや犯罪が簡単にできそうである。実際にそういう事件も起きている。
 本作の主人公の麻美は、恋人に電話をかけ、それに出た男が恋人が落としたスマホの拾い主であることを知る。その男はスマホを届けてくれ、麻美は無事に恋人にそれを戻すことができる。
 ここまでなら“ちょっといい話”だが、問題はその拾い主がただの親切な人ではなく、「悪知恵の持ち主」だったことだ。男にとっては、誰かのスマホが手に入るということは、本人のみならずSNSでつながった人たちの全情報を手に入れたのと同じ。さらに運が悪いことに、男は麻美のような女性をターゲットにする猟奇殺人犯だったのだ。
 一般的なミステリーならまず事件が起きて犯人捜しが始まるが、本作では犯人が最初にわかっており、次の犯行までのプロセスを読者は追うことになる。しかもそれはスマホを使う人になら誰でも起こりうるようなことだ。SNSを楽しみながら、気づかぬうちに麻美が追い詰められていく姿を見ながら、私は何度も自分のスマホのロック機能を確認してしまった。
 いわゆるサイバー犯罪ものといえる本作だが、存分に描かれた麻美たち“いまどきの若者”の夢や悩みもリアルで胸キュンの場面もある。そして、最後に「やっぱりスマホやネットより、いちばんの謎は人間」とうなるようなオチも待っている。震えながら楽しめる怪作だ。
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 宝島社文庫・702円=13刷50万部。17年4月刊行。ニッポン放送の局長だった著者のデビュー作。北川景子主演で映画公開中。=朝日新聞2018年11月10日掲載