蓮實重彦の『シネマの記憶装置』と『映画はいかにして死ぬか』(フィルムアート社、ともに2376円)が新装版になった。1979年、85年の刊行で長く品切れになっていた。
前者の表題作は46ページの本文で「。」が一つ。うねうねと続く文体は、私を含め多くの中毒者を生んだ。作品論や作家論も収め本人が「雑」と表現したように様々な文章が味わえる。後者は映画遍歴のインタビューや講義で読みやすい。旧版は粟津潔の装丁が印象的だったが、名久井直子のデザインにひかれる21世紀の読者も多いだろう。
本欄準備中の先週、2冊のあとがきのとり違えが発覚。妙に心揺れた。「それがたとえ偶然にせよ意図的であったにせよ、見てしまったことは否定しがたい事実であり、その場に立ち会いえたという秘(ひそ)かな喜びは、やがて悔恨に、そして証人たることの怖(おそ)れへと変質してゆくものであり(略)」(『シネマの記憶装置』から)。
青土社が5月に『表象の奈落』を新装、12月には『帝国の陰謀』がちくま学芸文庫に。再刊が続く。(滝沢文那)=朝日新聞2018年11月10日掲載
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