今年の野間文芸新人賞は、「想像力全開」(選考委員・高橋源一郎さん)の2作に決まった。金子薫さんの『双子は驢馬(ろば)に跨(また)がって』(河出書房新社)と乗代(のりしろ)雄介さんの『本物の読書家』(講談社)。選考会後の会見で、高橋さんは「わかりやすいものしか認めない時代に、正々堂々と想像力で世界を解釈しようとしている」と評した。
金子さんの受賞作は、どこかの部屋に幽閉された親子の物語と、親子を助ける旅をする双子の物語が並行して描かれる。金子さんは「良い1行目ができるとあとは自然に転がっていく。夢中になると自分でも予想しない面白い展開になる」と語った。親子が不安を鎮めるため囲碁を打つ場面は「書いているうちに囲碁が出てきました。ラストも決めずに書いていて、結末は自分としてはストンと落ちた」。
乗代さんの受賞作は「読むこと」がテーマ。大叔父を老人ホームに送る電車で乗り合わせた男が読書家だった。大叔父も男に負けない読書家で、遠い過去の秘密が明かされる。フォークナー、カフカ、川端康成。引用の多さが際立つ。乗代さんは「読んだらノートに書き写すということをやってきて、それが小説を書く方法になりました」。編集者とのやりとりは「まず引用を減らそう」から始まるそうで「引用が好きで、みんなそうだと思っていたのですが、そうでもないのかなと思い始めたところです」。
野間児童文芸賞は安東みきえさんの『満月の娘たち』(講談社)。中学生の娘と母の物語には、自身と娘が投影されている。「私とは違う人が母だったら、娘はもっと幸せだったのではという申し訳なさがずっとありました。自分の道を進んでほしい、中学生たちに少しでも励ましになればという思いがあります」
10~60代の6人の男を語り手に、戦前から平成の終わりをとらえた長編『草薙(くさなぎ)の剣(つるぎ)』(新潮社)で野間文芸賞を受けた橋本治さんは体調不良で会見を欠席。ユーモアたっぷりのメッセージを寄せた。「もう賞はいりません」と明言してきたというが、「病みあがりのふらつく体で反骨精神というのは薄らいでおります。素直に感謝いたします」。 (中村真理子)=朝日新聞2018年11月14日掲載
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