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怖いけどおもしろい、山の怪談

山怪 山人が語る不思議な話 1 著者:田中 康弘 出版社:山と溪谷社 ジャンル:歴史・地理・民俗の通販

価格:1296円
ISBN: 9784635320047
発売⽇: 2015/06/05
サイズ: 19cm/252p

日本の山には何かがいる。その何かは古今東西さまざまな形で現れ、老若男女を脅かす。狐火があふれる地、マタギの臨死体験、山塊に蠢くもの…。山で働き暮らす人々が実際に遭遇した奇…

評者:山室恭子 / 朝⽇新聞掲載:2018年12月01日

山怪 山怪(弐)山怪(参)山人が語る不思議な話 [著]田中康弘

 昔っから、怖いお話というのは人気があるもんでございます。近頃そこへサンカイ、山の怪異ですな、山での不思議な体験談を地元のかたがたから聞き集めた本が出まして、これがまあ滅法おもしろい。
 今日びの狸は、なんと進化しとるんです。かつてはコンッコンッ、ひそやかに斧の音を響かせて木こりを驚かせておったのに、秋田県阿仁では派手なチェーンソーの音真似にドーンと大木が倒れるオマケ付き、大がかりになったもんです。岡山県鏡野町で軽トラに化けて山菜採りを惑わせたのは狐でしょうかねぇ。
 狐火は古今変わらず、ふわふわと各地を活発に飛び回っております。バスケットボール大のことが多いようですが、青森県の梵珠山では山全体が発光したそうで、さぞや壮観だったでしょうなあ。
 なかに風流なヤツもおりましてな。茨城県笠間では桜の木の上でおぼろ月に扮して、おや空に二つの月が、と洒落こんだムジナがおったそうな。宮城県七ケ宿町の女の子たちは林道歩きで雪もないのに真っ白で心地よい山に一度だけ入れたというし、かたや中国山地ではベテラン猟師が登れども登れども真っ黒な焼け焦げ山に迷い込んで帰れなくなるところだったというし。こうなると命に関わってまいります。
 じっさい、山から帰らなかった神隠し事案は数知れず。キノコに埋もれて微笑みながら亡くなってたり。
 山は怖い。「祠から上で赤い椿の花さ見たら山下りねばなんねえ」。山形県小国町の猟師たちの言い習わしです。山の神様が危険を知らせてくださるんですな。
 サンカイにサンカイするサンカイにサンカイする、おっと失礼、山塊に散開する山怪に参会するには、それ相応のお作法が必要なようです。

 ――うしろから袖をぐいと引っ張られる。
 これ、よサンカイ!

 ――ふりむいても、だあれもいない。

    ◇
 たなか・やすひろ 1959年生まれ。カメラマン。「現代版 遠野物語」とも言われる本シリーズは累計18万部。