池澤春菜が薦める文庫この新刊!
- 『接続戦闘分隊 暗闇のパトロール』 リンダ・ナガタ著 中原尚哉訳 ハヤカワ文庫SF 1274円
- 『人間のように泣いたのか? Did She Cry Humanly?』 森博嗣著 講談社タイガ 778円
- 『不思議の国の少女たち』 ショーニン・マグワイア著 原島文世訳 創元推理文庫 907円
(1)戦闘服、ボディーアーマー、チタン製外骨格、コンタクトレンズ形の情報モニター、頭上では天使と呼ばれるドローンが辺り一帯をスキャンし、電子帽体で指導官からの分析と戦略をリアルタイムで受け、脳内に埋め込まれた生体インプラントは常に感情を安定状態に保つ。特殊な勘により未然に危機を回避することができる接続戦闘分隊長シェリー、果たしてそれは神秘の第六感か、それとも外部からのハッキングか。ガジェットの設定が魅力的。「自分の選択なのか、物語の進行の都合で頭に吹きこまれたことなのか、たとえいやでも区別はつかないんだ」
シリーズ物は紹介するタイミングが難しい。半ばで取り上げるわけにもいかないが、1冊目ではまだ面白さが未知数(翻訳物だと、オリジナルはもう刊行済みなのである程度予想がつくけれど)。10冊目となる(2)は、そういう意味で、満を持しての紹介だ。その時代、人はもう子孫を残すことができなくなっていた。ウォーカロンと呼ばれる、人そっくりの人工知能、高機能なロボットと共存する世界を描き出したWシリーズの完結編。人とは何か、という永遠の問いに向き合った力作。ぜひシリーズ通して読んでいただきたい。
アリスしかり、ドロシーしかり、不思議の国に行った登場人物たちにだって、その後の生活があったはずなのだ。(3)は、そんな向こう側に行って帰ってきた子供たちのお話。現実になじめず、戻ることを熱望する子供たちを集めた寄宿学校は、経営者も教鞭(きょうべん)を執るのも、もちろんかつてのアリスたちだ。向こう側は千差万別、夢のような悪夢のような日々の記憶は時に子供たちを慰め、時に絶望させる。そんなある日起こった殺人事件。死者の国に行って帰ってきたナンシー、女の子と間違えて妖精界にさらわれたケイド、ヴァンパイアの国のマッドサイエンティスト見習いジャック、骸骨と対話するクリストファー、個性豊かなメンバーが追う、残酷で美しくて絶望的な謎。とびきりビターなお伽噺(とぎばなし)の後日譚(たん)三部作の始まり。=朝日新聞2018年12月1日掲載