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滝沢カレンの「蟹工船」の一歩先へ

撮影:斎藤卓行

これは、僕の蟹工船で働いといていたときの今でも思い出すたびになんだかクスッと笑えてしまうような出来事だった。

僕が働く港では、主に蟹やイカや鮫などを捕まえる港だった。
僕は、蟹が小さい頃から好きだったため、蟹専用の働き手にしてくれたのだ。
ここの港では特に蟹に力を入れてるため、蟹工船という船があり、蟹を取って缶詰に加工すると言う画期的な船があった。

ある日の朝、当たり前のように港へ向かった。
だが、最近は次々に体調を壊す漁師がおおく、その日も体調不良の者がおり、蟹工船に乗るのは僕だけだった。
まぁでも、慣れたもんだし1人のが気が楽だ!とすぐに前向きになり船を発車させた。

発車させると、すぐに雲行きは怪しくなり僕がさっさと蟹を取って港で作業しようと心に決めた。
すると、目を蟹にやると・・・・・・な、な、なんと、蟹が立ち上がりこっちを向きながら、「しばらくすると、嵐がくるぞ! もう帰った方がいい」と蟹が喋りだしたのです。

僕は仰天したが、あまりの蟹の可愛さに時間がストップしたようにも感じた。
その蟹は、「おい! 立ち止まってたらみんな波に飲まれちゃうぞ! はやく戻ろう」とまたアドバイスをくれた。
そして、僕は現実に戻り、急いで船を港に戻したのだった。

蟹は小さいながらも、僕を先導してくれた。
そんな蟹のおかげで、僕はまれにくる大嵐を避けることができたのだった。
その蟹に恩を感じた僕は、缶詰にはせずそっと持ち帰ることにした。

蟹を家に出すと、蟹は照れくさそうにこちらをチラッと見てきた。
すると蟹の口から「僕を怖がらないのかい?」と僕に話しかけた。
僕はすかさず「怖くはないさ、だって今日君は僕を助けてくれたからね」と言った。

僕は正直喋る蟹など怖いと思ったが、強気な態度で返した。
すると蟹は「蟹になってみなさい」と僕に言ってきた。
僕は、何をへんてこりんな事を言いだすのだ、と思って軽く笑い流した。

蟹は、僕の前に回り込み、「蟹御殿はあるんだよ。君も蟹になったらこれるさ。とっても楽しくもあったかい場所だ」と意味深な発言をした。
だが僕はその蟹御殿がすごく気になった。
なぜなら僕は蟹が大好きだからだ。

蟹に聞いた。
「どしたら蟹御殿へ行けるんだい?」
すると蟹は「蟹になってみなさい」。
蟹はまた同じことを言った。
「一体どうやったら蟹になれるんだい?」と僕は聞くと、「そんなの簡単さ、僕についておいで」と、夜の港にトコトコ導かれていった。

夜の港はただただ真っ暗闇で海の音だけが鳴り響く。
昼の海とは違ってどこか不気味だ。
すると夜だというのに、発泡スチロールの中に入れて帰ったはずの蟹たちが全員出てきて、港でごちゃごちゃと何やら蟹の集会をしていた。
僕はびっくりしたが、蟹の可愛らしい集会に何故か癒されていた。

絵:岡田千晶
絵:岡田千晶

その瞬間、ピカーーッッッと、海のある一部分がキラキラと輝きはじめた。
僕は綺麗な輝く海の一部分を見て近づきたいと思った。
「あの光はなんだい? なにがあるんだい?」
蟹に聞くと、蟹は、「蟹になってみなさい。蟹なったらわかるんだ」と、また同じフレーズを僕に言ってきた。

すると、集会をしていた蟹たちがポツポツ海の中へ入っていき、光輝く場所へと向かっていき、あっという間に、港には僕とこの蟹しかいなくなった。
蟹がまた言った。
「蟹になってみなさい。みんなで蟹御殿でお祭りだ」と言ってきた。
僕はいてもたってもいられず、「蟹になるよ! さぁ僕をあそこへ連れてってくれ」と元気にこたえた途端・・・・・・次の瞬間目を開けると、そこは海の中でみんながご馳走を食べたり、踊ったり、歌ったりしている大量の蟹たちだった。

海の中だが、苦しくない。
苦しくないばかりか、幸せさえ感じていた。
僕は、ハッと自分の身体を見ると、そう、蟹になっていたのだった。
あの、僕にずっと付いて来ていた蟹は、主だったのか、大量の蟹の中でみんなに囲まれてチヤホヤされているじゃないか。
僕は1人ポツンとその光景をただただ幸せを感じながら見ていると、蟹の主が近づいて来て言ったのだ。
「さぁ、あなたもこっちへ来て一緒に楽しもう」と。

僕は海の中の蟹御殿で、それはそれは楽しんだ。
たくさんのご馳走を食べたり、歌をうたったり、仲間の可愛い蟹にチヤホヤされたりと、人間だったら考えられない生活だった。
楽しくて、ずっとずっとここにいたいと思った。
そこから、何時間、いや何日も楽しんだ気分になった。
散々楽しみ、僕は蟹御殿で深い深い眠りについた。

すると、遠くの方から、「起きろー! 起きろー!」と僕を揺さぶるひとりの姿が太陽に照らされ、うっすら見えた。
僕は声の方へと、ハッと意識を戻すと、そこには数人に囲まれた僕と大切そうに抱き抱えていた蟹がたくさん入った袋を手にしていた。
僕はわけが分からず、何があったのか、聞いた。

すると僕は、あの嵐の日逃げきれずに波に飲まれていたという。
そこで僕はどうやら気を失っていたようだ。
ただそこで、蟹が大量に取れたおかげで浮き輪代わりになり、僕を港まで運んでくれたのでした。

そんな中僕は「蟹になりなさい」と何度も夢の中で言われたというと、みんなは笑っていた。
きっと蟹になれば溺れずに済んだからだろうと、みんなが笑いながら言ってきた。
だけどこんなに蟹を握りしめていたくらいだから、蟹になっていたのかもなぁと冗談交じりに茶化す漁師もいた。
たしかに、今思えば変な夢だが、蟹のおかげで僕は助かったんだと。

もしかしたら、僕は本当に蟹になっていたんじゃないかとさえ思っている。
あの日、体調不良で僕しか漁に出れなかった意味もきっとなにか理由があったのかと思った。

それからは、蟹が喋る体験はしてないが、僕はもっと蟹が好きになった。
「蟹になりなさい」という題名の僕の体験談となり、この言葉はたちまち港に広まり、流行語ともなったのだった。
そんなちょっぴり不思議で幸せな僕の蟹工船の話だ。

(編集部より)本当はこんな物語です!

 ロシア領に近いカムチャッカ半島沖でカニ漁をする船を舞台に、過酷な環境で働く労働者たちを描いたプロレタリア文学を代表する小説です。東北各地の貧しい村から集められた出稼ぎ労働者たちは、夜明け前から深夜まで漁やカニ缶加工に従事するなか、粗末な食事や不衛生な船内環境のため、次々と体に変調をきたします。寝込んでいると監督から容赦のない暴力をふるわれます。蟹工船は、船でもなく工場でもない、労働法の抜け穴のような場所だったのです。

 カレンさん版の主人公「僕」は「蟹になりなさい」という言葉に導かれ、満ち足りた気分になりますが、本作の労働者たちは一人の船員の死をきっかけに、「殺されたくないものは来(きた)れ」という言葉に導かれ、団結してストライキに突入します。しかしその結末は……。

 後に特高警察の拷問によって殺される小林多喜二が1929(昭和4)に発表した小説ですが、10年前、突如ベストセラーとなり、2008年の流行語トップ10に選ばれました。「ブラック企業」「派遣切り」といった労働環境をめぐる言葉がメディアで話題となるなか、若い世代の共感を呼んだとも言われています。