痴漢やテロ事件などの犯罪対策として、近年は列車内にも監視カメラが設置され始めている。それがさらに進んで10年後の未来の大阪では、車内を三次元的にスキャンして丸ごと記録するシステムまでが環状線に導入された、という設定の物語だ。車内のできごとはすべて後から立体映像で再現して確認できるため、見えないところで密(ひそ)かに行われていた犯罪が見えるようになり、犯罪は激減。女性警官である主人公は、このシステムを使った痴漢捜査にあたっている。ところが彼女はある日、本来見えないはずのものまで、このシステムで可視化され、再現されてしまうことを知る。たとえば、妖魔やあやかしの類までもが――。
ミステリアスなアクションものの緊迫感の中で、骨太なSFドラマがぐいぐい進み、冒頭から引き込まれる。近未来のテクノロジーと、古来のあやかしとが、「見る」ことをめぐってぶつかりあい、予想外の展開に驚かされる。
本格派のSFの描き手として定評のある著者だが、本作では舞台が大阪なだけに登場人物たちのやりとりも軽妙で、重苦しくなりそうな空気を救ってくれる。著者の円熟味を感じさせる濃密なエンターテインメント作品だ。=朝日新聞2018年12月8日掲載
編集部一押し!
-
となりの乗客 血眼の帳尻 津村記久子 津村記久子
-
-
ニュース 第174回芥川賞・直木賞の候補が決定 坂崎かおるさん、葉真中顕さんら10人 好書好日編集部
-
-
小説家になりたい人が、なった人に聞いてみた。 【連載30回記念】市川沙央さん凱旋! 芥川賞後の長すぎた2年。「自費出版するしかないと思い詰めたことも」 小説家になりたい人が、なった人に〈その後〉を聞いてみた。#30 清繭子
-
新作映画、もっと楽しむ 映画「星と月は天の穴」主演・綾野剛さんインタビュー 肉体的表現を抑制した「耳で観る映画」 根津香菜子
-
えほん新定番 内田有美さんの絵本「おせち」 アーサー・ビナードさんの英訳版も刊行 新年を寿ぐ料理に込められた祈りを感じて 澤田聡子
-
朝宮運河のホラーワールド渉猟 小泉八雲の世界を味わい尽くす 翻案、アンソロジー、新訳の収穫 朝宮運河
-
トピック 【プレゼント】第68回群像新人文学賞受賞! 綾木朱美さんのデビュー作「アザミ」好書好日メルマガ読者10名様に PR by 講談社
-
トピック 【プレゼント】大迫力のアクション×国際謀略エンターテインメント! 砂川文次さん「ブレイクダウン」好書好日メルマガ読者10名様に PR by 講談社
-
トピック 【プレゼント】柴崎友香さん話題作「帰れない探偵」好書好日メルマガ読者10名様に PR by 講談社
-
インタビュー 今村翔吾さん×山崎怜奈さんのラジオ番組「言って聞かせて」 「DX格差」の松田雄馬さんと、AIと小説の未来を深掘り PR by 三省堂
-
イベント 戦後80年『スガモプリズン――占領下の「異空間」』 刊行記念トークイベント「誰が、どうやって、戦争の責任をとったのか?――スガモの跡地で考える」8/25開催 PR by 岩波書店
-
インタビュー 「無気力探偵」楠谷佑さん×若林踏さんミステリ小説対談 こだわりは「犯人を絞り込むロジック」 PR by マイナビ出版