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小説家デビューを果たした松井玲奈さん 映画「輪違屋糸里 京女たちの幕末」で新選組の悲劇を演じる

文:永井美帆、写真:有村蓮

浅田先生の文章は頭の中に映像が浮かび上がってくる

 京都の花街・島原は幕末、新選組と深い関わりがあった。壬生の屯所から近く、新選組幹部たちが夜ごと宴席を繰り広げる様子は、浅田次郎の小説「輪違屋糸里(わちがいやいとさと)」にも登場する。

 この小説を原作にした映画が12月15日に公開される。近藤勇と芹澤鴨という2人の局長が並び立ち、対立を深めていた初期の新選組を女性たちの視点から描いた。

 芹澤派の隊士、平山五郎と恋仲になる桔梗屋の芸妓、吉栄(きちえい)を演じたのは松井玲奈さん(27)。吉栄は主人公である輪違屋の芸妓、糸里(藤野涼子)と仲が良かったが、糸里は近藤派の土方歳三に淡い恋心を抱いていた。そして、女たちも新選組の内部抗争に巻き込まれていく。

 母親の影響で幼い頃から本に囲まれて育ち、「小説現代」(休刊中)に書評連載も持っていた松井さんだが、浅田作品を手に取ったのは初めてだという。「台本を頂いてから、続けて原作も読みました。映画では糸里と土方の恋愛模様が中心になっていますが、小説には吉栄の五郎に対する感情とか、吉栄と糸里の関係性がより深く描かれていて、それを参考にしながら役を作っていきました。浅田先生の文章は頭の中に映像が浮かび上がってくるような感じがあって、この空気感を映画の中でも出したいと思いました」

 吉栄は幼い妹や弟の代わりに、島原に売られてきた。厳しい境遇でも優しさを忘れず、ひたむきに五郎を愛する吉栄を「この作品の中で一番女性らしいと感じた」と松井さん。「吉栄が最後に下した決断もそうだし、何より五郎といる時の吉栄は女性でもあり、少女のようにも見えるんです。片目が見えない五郎の眼帯で無邪気に遊ぶ様子とか、その後の展開を考えると切ないんだけど、胸がキュンとして好きな場面です。雨の中、強く抱きしめられて番傘が落ちるというような時代劇ならではの映像表現も美しくて、新鮮でした」

©2018銀幕維新の会/「輪違屋糸里」製作委員会
©2018銀幕維新の会/「輪違屋糸里」製作委員会

 松井さんは「小説すばる」11月号に短編「拭(ぬぐ)っても、拭っても」を発表して小説家デビューを果たしたばかり。過去の恋愛によってトラウマを抱えたアラサー女性が、希望を持って前を向くまでをみずみずしく、ユーモラスな文章で表現し、アイドルでも、女優でもない、新たな一面を見せた。

 「もともとブログで日常の出来事をつづるとか、文字で表現することが好きでした。私が日常の中で気になったこと、嫌だったことから書き始めていきました。編集部の方々やマネジャーさんたちと『最近こういうことがあったんですけど、どう思います?』っていう話から膨らんで、小説になった感じです」

いつかちゃんと大人に」ならなくてもいい

 およそ3カ月の執筆期間には、つまずくこともあったという。「私じゃない別の誰かのことを、しかも起承転結を付けて書くっていうことが一番苦労しました。結末を決めずに書き進めていったので、『こんな終わり方になっちゃった』という気持ちもあります。長編小説を書くことを想像するとめまいがするけど、機会を頂けるのであれば、ゆっくりと挑戦してみたいです」

 時間があれば書店を巡る。ある日のブログでは「本とは出会いが大切」とつづっていた。

 「SKE48で活動していた時は余裕がなくて、あまり本が読めなかったけど、3年前に卒業したタイミングで、島本理生さんの『よだかの片想い』という小説に出会いました。幕の引き方が日常に近い感じで、ドラマチック過ぎないんです。それが私にはとても合っていて。そこから島本さんの作品を全部そろえ、本格的に読書を再開しました」

 最後に、最近読んだ本を尋ねると、しばらく悩んだ末に『なにたべた?』(伊藤比呂美、枝元なほみ著)を紹介してくれた。詩人と料理研究家の女性2人が日々「何を食べたか」を報告し合うFAXをまとめた往復書簡だ。

 「私は今27歳で、ずっとどこかで『いつかちゃんと大人にならなくちゃ』という思いがあったんです。恋愛をして、子どもを産んで、家のこともやらなきゃって。でも、2人のやり取りを見ていると、いくつになっても女の子なんですよね。無理に大人になったり、感情を押し殺したりする必要はないんだって気持ちが楽になったんです。また一つ、良い本に出会えました」

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