1. HOME
  2. 書評
  3. 「天皇の近代」書評 国民の共感を集める「能動化」

「天皇の近代」書評 国民の共感を集める「能動化」

評者: 齋藤純一 / 朝⽇新聞掲載:2018年12月22日
天皇の近代 明治150年・平成30年 著者:御厨 貴 出版社:千倉書房 ジャンル:歴史・地理・民俗

ISBN: 9784805111598
発売⽇: 2018/09/30
サイズ: 20cm/348p

現代世界の陛下たち デモクラシーと王室・皇室 著者:水島 治郎 出版社:ミネルヴァ書房 ジャンル:政治・行政

ISBN: 9784623082773
発売⽇: 2018/09/05
サイズ: 20cm/282,8p

天皇の近代 明治150年・平成30年 [編著]御厨貴/現代世界の陛下たち デモクラシーと王室・皇室 [編著]水島治郎、君塚直隆

 天皇の激務はよく知られている。その活動は「国事行為」、「宮中祭祀」そして「象徴的行為」からなる。国事行為は、法律の公布、大使の接受など憲法が列挙する公的行為であり、これらは「内閣の助言と承認」のもとになされる。宮中祭祀は、新嘗祭(にいなめさい)、皇霊祭など天皇が私的に行う儀式(神事)である。大嘗祭(だいじょうさい)は公的行為なのか、それとも私的行為たる祭祀の一つとみなされるべきか。この問題は、先般の秋篠宮の発言によって再び浮上した。
 現天皇がおそらく最も重視してきたのは憲法には規定のない「象徴的行為」である。この表現は、一昨年夏に生前退位の意向を示した「おことば」にもある。「時として人々の傍らに立ち、その声に耳を傾け、思いに寄り添うこと」。「国民統合の象徴」という抽象的な観念は、戦地での慰霊や被災地への訪問などを通じて具体化され、可視化される。実際、天皇の象徴的行為は敬愛や共感を人々からあつめ、社会の統合にとって大きな役割を果たしてきた。『天皇の近代』のいくつかの論考も、この行為に注目し、柳田国男の議論に「住民をねぎらい、いたわる存在への社会的要請」が見られること、また、皇室がこの行為や国民に向けた発言を通じて「能動化」していることを指摘する。
 近年、英国をはじめ各国の王室も例外なく能動化していることは『現代世界の陛下たち』からも分かる。デモクラシーのもとでは、国民からの安定した支持がなければ君主制は成り立たず、王室には支持を得るための不断の行為が求められる。他方、君主制には、デモクラシーの安定化に資する面もある。政治から分離された「尊厳的部分」(W・バジョット)の存在は、為政者の倨傲や人民主権の暴走に対する抑制として作用しうるからである。
 来年5月には新天皇が即位する。この機会に、女性皇位継承を含め、天皇制という制度の今後について忌憚なく議論したい。
    ◇
 みくりや・たかし 東京大名誉教授▽みずしま・じろう 千葉大教授▽きみづか・なおたか・関東学院大教授。