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強くて輝く選手になって2020年、金メダルを 空手・植草歩さん(後編)

文:熊坂麻美、写真:佐々木孝憲(上の写真は『空手道マガジンJKFan』が提供)

>植草さんが漫画「PとJK」の魅力を語る前編はこちら

負けず嫌いだから格闘技に向いている

――空手競技はおもに、2人の選手が対面で技を攻防する「組手」と、仮想の敵への攻撃と防御を組み合わせて演武する「形」があります。植草さんはいま組手を専門にされていますが、最初は形もやっていたのですか?

 空手は小3から始めて、高校くらいまでは両方練習していました。組手と形は競技性がまったく異なり、それぞれに魅力がありますが、相手に合わせて戦術を変えていく組手のほうが私には合っていました。組手は互いに突きや蹴りを繰り出しあう格闘技です。私は負けず嫌いで気が強いので、やられたら「絶対にやり返す!」と、燃えるタイプ。性格的にも向いていると思います。

――組手の面白さはどんなところにありますか?

 突きや蹴りだけじゃなく投げもあり、技が多彩です。緊迫感のあるなかでのスピーディな技の攻防を見てほしいですね。自分自身は高校時代のコーチに「駆け引き」を教えてもらってから、競技の面白さに目覚めてますますハマっていきました。

――駆け引きというのは具体的には?

 相手との間合いの取り方や心理戦です。コーチには相手が何を考えているのか見つけなさいと、繰り返し言われました。それまでは無心で戦っていたのですが、相手の表情や体の反応を見て考えながら戦うことで「勝ち方」がわかってきたというか、その場面場面に応じた技を効率的に出せるようになったんです。そこから、どんどん勝てるようになりました。

 高2のとき、桃太郎杯という全国大会で優勝して「あれ、うち強いかも?」と初めて思って(笑)。3年のインターハイで3位、国体では優勝して、帝京大学から声をかけてもらいました。高校時代の目標が、全国優勝と、空手雑誌に取り上げられること、伝統のある大学にスカウトされることだったから、「全部叶った!」とうれしかったです。

挫折を乗り越えて成長、世界一に

――帝京大学はラグビーをはじめスポーツ全般が強豪で、空手も名門ですね。

 全国からトップの選手が集まってくるので、練習の量も質もこれまでとは段違い。最初はまったくついていけなくて苦しくて、何度も辞めようと思いました。それを同期も先輩も知っていて、みんなが「植草、頑張れ! できるよ!」ってずっと応援してくれました。高校時代は自分がみんなをリードする立場だったから、周りに支えられながら空手をやるなんて初めてでした。仲間が引っ張ってくれたおかげで、気づいたら練習について行けるようになっていました。

――大学在学中に世界選手権で2回銅メダルを獲り、ワールドゲームズ(オリンピック種目以外の世界大会)でも優勝。いい仲間に支えられて、めきめき強くなったんですね。

 大学4年間で確実に力はついたのですが、世界選手権と全日本選手権だけは優勝できませんでした。勝てない理由がわからなくて落ち込んでいたとき、帝京大学でラグビー部のフィジカルトレーナーをしている方に「お前はフィジカルもできていないし、栄養管理もまだまだ。アスリートとして未熟すぎる。勝てるわけがない」とバッサリ言われて、ハッとして。

 まだまだということは、伸びしろしかないということ。それに気づいたら、また練習に打ち込むことができました。フィジカルや栄養面を改善することで自信やメンタルの強化にもつながって、2015年に全日本選手権、2016年に世界選手権で優勝。世界選手権のときは、表彰式で自分のためにあがる日の丸を見て君が代を歌っていたら、支えてくれた人たちの顔が鮮明に浮かんできて、初めて嬉し泣きしちゃいました。

――植草さんの強みはどんなところですか?

 駆け引きを含めて「考える空手」をずっと教わってきたので、相手の弱点をついたり、相手の動きに合わせて戦法を変えて攻防できるのが自分の強みです。でも、同時にそこが弱さでもあって。試合中も冷静に考えられるから、策に溺れてしまったり、守りに入ってしまうことがあるんです。戦う気持ちを忘れるなと、師範から言われています。

――今年11月の世界選手権では惜しくも銀メダルでした。前回、世界選手権で優勝して追われる立場になったことで戦い方は変わりましたか?

 クセを読まれたり攻撃パターンを対策されたりして、技がなかなか決まらなくなったと感じました。それを上回らなくてはいけない、とにかく勝たなければと思うあまり、自分の強みである相手の弱点をつく戦いができなくなり、攻めきれなかった。

 負けた直後は本当に悔しくて、どうしようもなく絶望しました。でも負けたことで、自分に足りないものが見えてきました。今後は自分の空手スタイルを保ちながら、改善する部分にアプローチしていけばもっと強くなれるはず。いまはいいイメージしかなくて、自分がどう変わっていくか楽しみです。2年後の金メダルしか、見ていません。

空手のおもしろさを多くの人に知ってほしい

――植草さんは日本の空手の顔であり、「空手界のきゃりーぱみゅぱみゅ」と呼ばれたりもして、多数のメディアに登場されています。注目されることへのプレッシャーはありませんか?

 注目されるということは期待されているということなので、自分はそれが力になります。見られているという意識があるから、振る舞いや話し方に気を付けるようにもなりました。きゃりーぱみゅぱみゅさんには似ていないのでファンの方には申し訳ないけど(笑)、でもそういう話題性をきっかけに空手に興味を持ってもらえたらうれしいです。

 空手は日本発祥の競技ですが、一般の人には「瓦割」のイメージが強くて、そこから抜け切れていません。だから実際に試合を見てもらいたいです。見たら絶対に面白いと思ってもらえる自信があります。

――何年か前に、偶然テレビで全日本選手権の「形」の決勝戦を見ました。初めて見る演武に目が釘付けになって感動したのを覚えています。

 そうなんです! 形は架空の相手を想定した演武で、突きや蹴りの力強さやスピード、しなやかさ、表現力が問われる競技です。男子の世界チャンピオンの喜友名諒選手は、形ごとにモチーフにしている動物がいて、たとえば虎だったら怒っているときの獰猛さをイメージして表情まで作りこんでいると聞きました。そこまで深く彫り込んで突き詰めている世界です。とくにトップ選手は、見た人を感動に巻き込む素晴らしい演武をします。組手との競技性の違いもあわせて楽しんでほしいです。

――(前編で)植草さんは空手から離れたいときは『クレヨンしんちゃん』を見ているというお話がありました。ほかに、オフの楽しみはありますか?

 洋服が好きなので、買い物が息抜きです。海外に試合に行くときはスマホにダウンロードした漫画のほかにファッション誌も読んで、次にどんな服を買うかチェックしています。町を歩いた時に「あの人、キレイ!」って思われるようなファッションが理想です。筋トレをしているから体は大きいけど、女性らしく、常に輝いていられたらと思っています。

――いいですね。そういう考えは誰かの教えだったりするんですか?

 帝京大学に進学するとき、高校のコーチが「空手を頑張るのはもちろんだけど、植草はいつもかわいいキラキラした存在でいなさい」と言ってくれたんです。いまも帝京大学で練習させてもらっていて、ラグビー部のギラギラした男子と一緒にトレーニングをしているからガサツになりがちなんですけど(笑)、「女性であることを忘れるな」と大学のトレーナーからも言われています。

 空手選手として注目してもらっているからこそ、子供たちに憧れられるような、強くて輝いている存在でいたい。自分がそういう選手になることでも、空手を広めていけたらいいなと思っています。