- 朝倉かすみ『平場の月』(光文社)
- 朝比奈あすか『人生のピース』(双葉社)
- 伊藤朱里『緑の花と赤い芝生』(中央公論新社)
「朝霞、新座、志木。家庭を持ってもこのへんに住む元女子たちは一定数いる。」
千葉でも神奈川でもない、埼玉のこの地域――都心へのアクセスが良いため、廃れはしないが発展もしない――という舞台設定が絶妙だ。
朝倉かすみさんの『平場の月』は、そんな「元女子」の一人である須藤葉子と、彼女と中学が一緒で同様の男子である青砥健将の、もどかしいまでに不器用で、その分ひたむきな恋愛を描いたものだ。
五十歳。どうあがいてももう若くはないし、若くもなれない。人生で過ごしてきた時間が、これから過ごす時間より長くなってしまった二人だからこその“わかってしまう”感じを、その曖昧さまでをも、細心の手つきですくい取っている。本書は、「平場」にいる、もう若くない私たちを、静かに肯定してくれる一冊でもある。
朝比奈あすかさんの『人生のピース』は、三十四歳の潤子の“婚活小説”の体を取りつつも、その本質は“三十代女子をとりまく壁”を描いた物語。
中高女子校で共に過ごした潤子、みさ緒、礼香は、今でも親友どうしで、事あるごとに集っている。企業の広報部で働く潤子、広告会社で営業職に就くみさ緒、母校の女子校で国語教師をしている礼香。
三人のなかで一番男っ気のなかった礼香が、見合い結婚をすることになった、と報告したことで、潤子とみさ緒、それぞれの心にさざ波が立つ。そのさざ波の行方、が読みどころ。
伊藤朱里さんの『緑の花と赤い芝生』は、理系女子でキャリア志向の志穂子と、家庭第一の主婦の杏梨。対照的な二人の二十七歳女子の人生は、交わることなどなかったはずなのに、志穂子の兄と杏梨が結婚したことで、否が応でも接点を持たざるを得なくなる。
志穂子と杏梨、ともすれば敵対関係に陥りそうなこの二人を、際どいところでそうはさせずに、別の角度から描いたところがミソ。志穂子には志穂子の、杏梨には杏梨の、それぞれの事情があるのだ。二人の母親が娘とは正反対――志穂子母は専業主婦、杏梨母は厳格な教師――、という設定が物語の細部に効いているのが巧い。=朝日新聞2019年1月13日掲載