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accototo(ふくだとしお + あきこ)の絵本「ポポくんのミックスジュース」 安心なことばで、そっと伝えたい

文:柿本礼子、写真:斉藤順子

おすそ分けして共有する楽しさがテーマ

――なんと敷地内にはツリーハウスもあるのですね。

ふくだとしお(以下、としお)自然の豊かな場所を探していたとき、雑木林がしげるこの場所に「ここだ!」という直感があり、迷いなく決めました。ツリーハウスはDIYです。最近では次女が「誕生日に小屋が欲しい」というので、小さな小屋を作りました。

ふくだあきこ(以下、あきこ)たまにお弁当を持って、家族全員で小屋の中にぎゅうぎゅうに入ってピクニックをするんです(笑)。

――まるでポポくんのお話に出てきそうなかわいらしいエピソードです。『ポポくんのミックスジュース』はどのようなきっかけでできたのですか?

としお:それまで僕たちは絵からイメージを膨らませて話を作ることが多かったんですが、この時には担当編集者さんから「今回はストーリーから作ってください」という依頼がありました。それから「ものをつくる」というテーマにしたいと。

あきこ:身近な材料で、おうちでも試してみられることがいいなと思っていたので、ミックスジュースを作ろう、と割と早い段階から決まりました。ストーリーは最初は二人別々に作って、それを混ぜて削って、膨らませて……を繰り返し、形になっていきました。

としお:作品を作っている間は、とにかく沢山の種類のミックスジュースを作りました。出来上がりの色味を見たかったから。絵本の中で出てくるミキサーは、実際に家にあったものを描いているんです。とにかく毎日何かのジュースを作って飲んでいた記憶があります(笑)。長女が1歳になる手前だったから、離乳食代わりに少し食べさせたりして。

――主人公のポポくんほか、キャラクターはどう生まれてきたのでしょう?

あきこ:(としおさんを指差して)カバっぽいでしょ(笑)。一見おだやか〜な感じだけど、実はけっこう気が荒い時もあるとか、そんなところも似てる。

としお:そうそう、なんかカバに親近感が……。もちろん自分そのものじゃないですが。ポポくんが決まって、仲間達も自然と決まっていきました。

 

「ポポくんのミックスジュース」(PHP研究所)より
「ポポくんのミックスジュース」(PHP研究所)より

――お二人で絵本を作るときは、としおさんが作画を担当し、あきこさんが彩色をしているのですね。

としお:はい。僕はそれまで油絵を描いていましたが、沈んだ感じの色彩になることが多くて、色彩感覚はあっこの方がいいなと思っていたんです。そこで最初の絵本『うしろにいるのだあれ』を作るときに、温かい感じの茶色で……と説明して色を作ってもらったら、僕の想像以上の色が出てきて、以降は自然とこういう役割分担になりました。

あきこ:水彩画の「うしろにいるのだあれ」シリーズと違って、「ポポくん」シリーズは切り絵なんだよね。

 

紙を切る動きの多いとしおさんは立って作業を、紙に彩色をすることが多いあきこさんは中央のデスクが定位置。あきこさんが彩色した紙は、としおさんの作業デスク下の引き出しに色別に収納されている
紙を切る動きの多いとしおさんは立って作業を、紙に彩色をすることが多いあきこさんは中央のデスクが定位置。あきこさんが彩色した紙は、としおさんの作業デスク下の引き出しに色別に収納されている

としお:そう、白い紙を切り抜いてから、色を塗って作っています。他の作品で切り絵にするときは、紙の全面に色を塗って形を切り抜くのですが、ポポくんシリーズの登場人物に関しては、なぜかこのやり方になってしまいました。

ラフの段階で全ページの構図を完成に近い状態まで作り込んでから描き、切り抜きます。ただ配置が少しずれると、自分の予想していなかった面白い効果が出ます。本作で始めたコラージュの手法が気に入って、以降はこの方法で絵本を作画することが多いです。

 

――ポポくんのお友達が色々な果物を持ってきて、それを混ぜ合わせてミックスジュースを作ります。いろんな果物を合わせた虹色のミックスジュースをある方法でみんなに配りますね。とても美しいシーンです。

としお:以前、近所の友人を招いてホームパーティをしたことがありました。僕たちもいくつか料理を用意していたんだけど、みんなも色々と持ち寄ってくれて、解散したときには、最初に作っていたよりもっと量が増えていたんです。みんなにおすそ分けしたら返ってきた、あの体験が僕の中で大きなテーマのようにあったと思います。ミックスジュースを配るこのシーンは一番描きたかった一面です。

大人になって、あっと思い返してもらえればいい

――二人の出会いはフランスの語学学校。美術を志す二人は意気投合し、あきこさんの最初の誕生日に、としおさんは手作りの絵本をプレゼント。このことが絵本作家を意識したきっかけとなりました。

としお:絵がつながっていく面白さは、1枚の絵とは違う良さがあると手応えを感じました。帰国してからは油絵で個展をしたり、絵の教室を開いたりしながらも、絵本を作っては出版社に持ち込んでいました。

頭の中でイメージした色を、水彩画の絵の具を混ぜながら作り出していく。細かな模様はペンや色鉛筆を使うことも
頭の中でイメージした色を、水彩画の絵の具を混ぜながら作り出していく。細かな模様はペンや色鉛筆を使うことも

――2003年『うしろにいるのだあれ』で絵本作家デビュー(当時はふくだとしお名義)。同年12月には、愛子様のお気に入りとして同書が紹介されました。

としお:当初、出版社に持っていった絵はラフ(下絵)のつもりだったんです。その力の抜け加減がかえって良かったみたいで「この絵で行きましょう」と出版に至りました。以降じわじわと売れてはいたのですが、「愛子様のお気に入り」として紹介された反響は大きかったですね。そこから一気に本が広まって、僕たちも忙しくなっていきました。05年にタオルや食器などにイラストを描く依頼があり、そのタイミングで以前からつくっていたユニット名「accototo」を出しました。妻のニックネーム(あっこ)と僕(とと)のを合わせたものです。

あきこ:私たちには3人の子どもがいますが、子どもから受ける影響は大きいですね。『ポポくんのミックスジュース』は子育てをしていたから作れた話だったかなとも思います。子どもがいなかったときのほうが「絵本を作るならばメッセージを込めたい」と思っていたかも。

今はわずかに薄く、「大人になってあっと思い返してもらえるかな?」程度にメッセージを込めます。重すぎず、最後まで楽しく読んでもらえることが一番嬉しいです。

 

としお:そうですね。読んでいるお父さんお母さんも、普段の生活の中で忘れていることを少し思い出してくれるといいなと、そのくらいの軽いメッセージを込めます。

僕はかつて、文章が短く、ぽんぽんと展開するデザイン的な絵本が好きだったのですが、子どもが生まれてからは文章について意識するようになりました。食の世界に「安心・安全」が言われるように、僕たちは「安心できることば」を届けたい。乱暴な表現を避けて、子どもがイメージしやすいことばを意識しています。

あきこ:ラフの段階で子どもに読んで聞かせて「わかるかな?」と確認したりもします。難しいことばでも、その前後の文脈や音の響きで分かることもあるし、わかるかなと思っていたことばが「それ、なあに?」と聞かれることもあります。子どもがいなかったら、作品は全く違ったものになっていただろうな、と思いますね。