「明治維新とは何か?」書評 研究史へ異議申し立て 多岐に
ISBN: 9784490210002
発売⽇: 2018/12/10
サイズ: 20cm/296p
明治維新とは何か? [編]小路田泰直、田中希生
編者の小路田泰直によると、明治維新研究者は今なお、「第二次世界大戦後に誕生した戦後民主主義体制」と、明治維新により誕生した天皇制の断絶を説くことに、ほぼ全エネルギーを注いでいるという。その研究史の現状への異議申し立てが本書の狙いの一つだ、と冒頭で明かしている。
その編者を含む8人の歴史家が、多様な角度から明治150年を機に論じている。20~40代の論者4人の論点と論じ方が、その上の世代と異なって多岐化しているのも特徴的である。
たとえば、島崎藤村の『夜明け前』と明治実証主義史学を論じる稿では、吉田松陰の書簡を例にとり、「事実」の意味を解き、そして藤村が何を未来に託そうとしたのかを見ていく。
やはり論者の一人は、「明治維新々論」として、藤村と王政復古の関連性を探ろうと試みている。さまざまな視点(死と愛の抑圧など)を提示した後、藤村が恋愛小説を書いたのは、「維新の一つの形」といい、晩年の『夜明け前』は死者への祈りを社会に突きつけたと評する。私たちの社会は、彼が予言的に示唆していた問題を未だ解決していないと、結論づける。注目すべき見方である。
明治維新と西欧型近代国家モデルとの対峙を論じた稿では、北一輝と孫文の革命構想が整理されている。
西欧と渡り合うための近代国家建設が叫ばれたとしたうえで、それは日本の尊王攘夷運動、中国の革命運動だとの前提を置く。明治維新と辛亥革命の捉え方を固めた上で、彼らの思想は現実に直面した「自律的な『個人』の不在」をどのように乗り越えられるのかと問うている。
率直な読後感になるが、かなり難解で生硬な表現の一節もある。しかし、いずれも論点が明確なので理解はできる。あえて欲を言えば、次世代を担う歴史家に、より本質的な明治維新の現代への連続性、あるいは不連続性についての検証を試みて欲しかった。
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こじた・やすなお 1954年生まれ。奈良女子大教授(日本史)▽たなか・きお 76年生まれ。同大助教(歴史学)。