フィンランドで今、空前のブームとなっている公衆サウナを日本の銭湯と比較、考察した。8年前にフィンランドに移住し「日本人のお風呂文化とフィンランド人のサウナ文化は、驚くほど似ている」と語る。
人生初のサウナ体験は、21歳の時と意外に遅い。シベリウスの音楽に導かれて訪れたフィンランドで、サウナを知った。「素っ裸でただ蒸気を浴びるという入浴法の斬新さと、その思いがけない心地よさ。サウナ室の中でなら、不思議とテンポよくはずむ会話」と振り返る。
同国の大学に1年留学し、帰国後に東京都内の会社に就職。関西育ち。知人の少ない東京で暮らす寂しさを銭湯で癒やした。「居合わせた人とつかず離れずの関係性が築けて、居場所をみつけた気持ちになれた」
2011年にフィンランドに戻り、大学院で学ぶ。折しも、家庭用サウナの普及で絶滅寸前だった公衆サウナが、イベントや観光客を呼び込む「場」として、見直され始めた頃だった。「公衆サウナ再興の背景を探ると、日本の銭湯がもっと元気になるヒントがみつかるのでは」。修士論文のテーマに、公衆サウナを選んだ。
本著はその論文をベースに、銭湯と同じような栄枯盛衰をたどった公衆サウナの歴史をひもとく。本場のサウナ室には砂時計やテレビはなく、焼けた石に自分で水をかけてその蒸気を浴びながら穏やかに過ごす。自宅やアパートのサウナなどを一般に開放するイベントや利用者が自主的に運営するサウナなど、現在のブームの仕掛け人たちにもインタビューをした。
近年、日本でもサウナ人気が高まっている。「『サウナー』といわれる愛好家の情熱と水風呂の温度など細部にわたるこだわりに驚いた」。本業は撮影ロケや取材のコーディネートだが、日本からサウナ視察に来る人のアテンドなど、サウナ関連の仕事が飛躍的に増えた。
日本とフィンランドは今年、外交関係樹立100周年を迎えた。「日本とフィンランドには心と体が安らぎ、浄化され、いやされ、楽しめるという入浴の精神が息づいている。両国の浴場文化の架け橋になれれば」=朝日新聞2019年2月2日掲載
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