- 大沢在昌『帰去来』(朝日新聞出版)
- 葉真中顕『W県警の悲劇』(徳間書店)
- 若竹七海『殺人鬼がもう一人』(光文社)
作家生活40年を迎えた大沢在昌の記念作『帰去来(ききょらい)』は、パラレルワールドSFと警察小説を見事に融合している。
連続殺人犯に首を絞められ意識を失った女性刑事の志麻由子は、次に目覚めた時、日本共和国でエリート警視になっていた。そこは先の大戦に勝利するも経済の悪化が続き闇市が発達していた。由子警視は闇市を仕切る二つの組織と戦っており、その任務を由子が引き継ぐことになる。
ハードボイルドとしても、SFとしても秀逸で、周到な伏線がまとまり意外な真相が浮かび上がる終盤は圧巻だ。
終戦直後に近い日本共和国と繁栄が退廃を生んでいる現代日本の対比は、戦後史の問い直しのようにも思えた。
先の大戦末期を舞台にした『凍(い)てつく太陽』で大藪春彦賞を受賞したばかりの葉真中顕(はまなかあき)の『W県警の悲劇』は、ハードだった前作とは一転、ブラックなユーモアをちりばめた警察小説の連作集である。
W県警の女性警官たちが挑むのは、警察官の鑑(かがみ)と呼ばれた男の不審死、女児殺害事件の被害者が交換日記をしていた相手捜し、密造拳銃製造現場での証拠探し、奇妙な態度を取る痴漢容疑者の取り調べなど六つの事件。どの作品も鮮やかなどんでん返しが用意されており、本格ミステリーが好きでも満足できる。
謎が解かれるにつれ、セクハラは日常茶飯事、出世は難しく、男性警官の結婚相手と考えられている女性警官の鬱屈(うっくつ)も明らかになっていく。このW県警の体質は、日本型組織の戯画に見えてしまった。
東京郊外の寂れたベッドタウンにある警察署で働く大柄な女性捜査員・砂井三琴を主人公にした若竹七海『殺人鬼がもう一人』も、本格ミステリー色が強い連作集である。
三琴は、金が手に入るネタを見つければ、事件解決よりも金儲(かねもう)けを優先する悪徳警官。ただ住民たちも、警察も頭が上がらない大富豪、警察を懐柔して選挙戦を有利に進める市長、依頼を受けて殺人を請け負う女など癖のある人物ばかり。そのため伏線が回収され、物語が思わぬ場所に着地する一筋縄ではいかない展開には驚かされるはずだ。
作中の事件は、経済成長が鈍り少子高齢化が進む現代社会でしか成立しないだけに、読むとせつなく感じられる。=朝日新聞2019年2月10日掲載