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父から言われた「女優になるなら本を読みなさい」 大原櫻子さん、映画「あの日のオルガン」主演

文:永井美帆、写真:樋口涼

脚本のせりふの裏側にある感情まで想像して

 「女優になりたい」。高校生の頃、大原さんが父親にそう言うと、すぐに「本を読みなさい」と返された。「脚本に書かれているせりふを深く理解して、その裏側にある感情まで想像するには、普段から本を読んでいないと難しい。だから、女優は本が読めないとダメだって言われました」。その言葉はデビュー5周年を迎えた今も心の奥にある。

 映画の原作『あの日のオルガン 疎開保育園物語』(久保つぎこ著)は撮影前に読んだ。1982年に刊行されたノンフィクションを今回の映画化に合わせて改題、加筆修整した作品で、「学校では習わなかった戦争」が克明に描かれていた。「疎開保育園があったことすら知りませんでした。保母さんの言葉一つひとつに、今の恵まれた環境にいる私たちにはない強さを感じ、『そんな女性たちがいたことを伝えないと』っていう責任感が湧いてきました。こうした先輩たちがいたからこそ、私たちが生きているんですよね」

 大原さんが演じたみっちゃん先生は、子どもたちと遊ぶことが大好きな新米保母。時々、主任保母の楓先生(戸田恵梨香)に怒られながらも、親元を離れて疎開生活を送る園児たちを得意のオルガンで勇気づける。「天真らんまんなみっちゃん先生を演じるのは難しかったですね。能天気に見えてもいけないし。でも、こんな戦争のさなかに他人の子どもを預かるって、ただ子どもが好きなだけじゃ出来ないと思うんです。その軸には子どもたちへの愛情と『絶対に守る』という強い意志があって、そこだけはぶれないように演じていました」

©2018「あの日のオルガン」製作委員会
©2018「あの日のオルガン」製作委員会

本物の保育園さながらの撮影現場でオルガンを響かせる

 約30人の子役と一緒の撮影現場は、本物の保育園のようだった。「全然じっとしてくれないんです。でも、『ちゃんとしなさい!』って怒ったところで、子どもたちにとって怖い先生になっちゃって、みっちゃん先生を演じるのに支障をきたすなって。だから、ゲームをすることにして、私が撮影の立ち位置を指しながら『あそこまで5秒で行けた人、良い子ですよ~! 3、2、1……』って言うと、ちゃんと位置についてくれるんです。子どもたちは『良い子』とか『1番』っていう言葉が好きみたい。あと少しで終わるっていう時に『トイレ~』って言い出す子がいたり、カットがかかった瞬間に抱っこをせがまれたり。大変な現場だったけど、子どもたちの笑顔を見ると何でも許せちゃうんですよね」

 女優だけでなく歌手としても活躍し、紅白歌合戦にも出場を果たした大原さん。ピアノは5歳から続けていて、今作では約90年前に製造された木製足踏みオルガンを完璧に弾きこなしている。しかし、本人は相当のプレッシャーを感じていたという。「家ではキーボードで練習していたんですが、いざ現場に入って、足踏みしながらだと全然違って、うまく弾けなくなっちゃうんです。タイトルが『あの日のオルガン』なのに、弾けなかったらどうしようって。でも、たくさん練習したお陰で、間違えることはなかったんじゃないかな」。演奏したのは、「お猿のかごや」「ふるさと」「雀の学校」など、平松恵美子監督がこだわりをもって選定した童謡の数々。大原さんはカメラが回っていない時もオルガンを弾き、子どもたちの歌声が撮影現場に響き渡っていた。

 女優に、歌手に、忙しく過ごす毎日でも、父親の教えを守って読書は続けている。4歳年上の姉が出版社で働いているので、本の話で盛り上がることも多い。「小さいころ、毎晩のように父が読み聞かせをしてくれたので、自然と本が好きになっていました。お気に入りの1冊をあげるとしたら、悩みますね。姉から教えてもらった児童書なんですけど、『イグアナくんのおじゃまな毎日』(作・佐藤多佳子、絵・はらだたけひで)は学生時代からのお気に入りです。イグアナをプレゼントされた女の子と家族の話なんですけど、だんだん大きくなっていくイグアナに振り回される様子が面白くって。いろんな本を読んで想像力を膨らませることは、演技の仕事にもつながっていると感じています。父の言っていた通りですね」

>「あの日のオルガン」フォト集はこち