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新書ピックアップ(朝日新聞2019年2月16日掲載)

『吃音(きつおん)の世界』 

 思い通りに発話できないことに悩む当事者の悩みは意外に知られていない。「どもるのは悪いこと」という思い込みから言い換えや回避を試みるうちにコミュニケーションが苦痛になり、社交不安障害を抱えることも少なくないという。自身も当事者であり吃音外来を行う医師が、治療の歴史と現況、人生の選択を狭めないための方策までを、体験を踏まえて紹介する。
★菊池良和著 光文社新書・864円

『へんちくりん江戸挿絵本』

 出版文化が隆盛した江戸では、「知」を「絵」でちゃかす、遊び心満載のさまざまな挿絵入りの本が出されていた。本書では、主に18世紀後半の作品を、神仏や思想、実用書などのジャンルに分け、時代背景とともに読み解いていく。例えば、遊里に遊ぶ七福神や、手をレンタルする千手観音、「唐詩選」をパロった春本「房事選」……。図版多数。江戸時代の人々の豊かな発想を知る。
★小林ふみ子著 インターナショナル新書・929円

『ある若き死刑囚の生涯』

 1968年の横須賀線爆破事件で死刑となった純多摩(すみたま)良樹の獄中での7年間は、キリスト教洗礼に至る信仰と、苦悩を負う精神を、独特の短歌に詠む日々だった。精神科医で作家の著者が、純多摩の歌に注目して、交わした書簡なども含め、その内面を描き出す。戦死した父の不在、家族、はりつけで死刑となったイエス・キリストへの思いは深化して短歌になった。
★加賀乙彦著 ちくまプリマー新書・907円

『「サトコとナダ」から考えるイスラム入門』

 イスラム教徒は地域によって生活や考え方もさまざまだ。米国に留学したサトコと、サウジアラビア出身のムスリムのルームメート、ナダの、異文化交流を描く漫画『サトコとナダ』を織り込みながら、文化人類学者の椿原と中東イスラム研究者の黒田が、その歴史や文化、暮らしを解説し、思いこみや誤解を解きほぐす。
★椿原敦子・黒田賢治著 星海社新書・1058円