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現状を俯瞰、険しい見通し 「お金の流れで読む 日本と世界の未来」

 イギリスのことしか知らない人が、イギリスの何を知っているというのだ?――本書で引用される詩人キプリングの一節だが、イギリスを日本に置き換えれば、それは私たちにも当てはまるだろう。
 親日派の著名投資家が著した本書は、日本と朝鮮半島、中国など北東アジアを中心に世界情勢を俯瞰(ふかん)。そこに著者の得意とする歴史的な考察を加えつつ、各国を比較・相対化することで各々(おのおの)の実態が浮かび上がる。
 その現状と見通しは険しい。近年の日本における好景気は「紙幣を刷れば株価が上がる」という市場原理に則(のっと)っているだけで、巨額の長期債務残高など根本的な問題は解決しないという。世界を見渡しても、借金がない国は北朝鮮くらいしかない。どの国の中央銀行も政府を助けるために紙幣をありったけ刷るが、刷った後のことなど何も考えていない。
 彼らは「ソフトランディングをするから、心配ない」と言うが、過去にそれができたためしはない。世界中の負債額が史上最悪の数字を記録する中、米中貿易戦争などによる悪影響が徐々に広がり「今後一~二年のうちに、私が生きてきた中で最悪の経済危機が起きる」と著者は予想する。=朝日新聞2019年2月16日掲載