イギリスのことしか知らない人が、イギリスの何を知っているというのだ?――本書で引用される詩人キプリングの一節だが、イギリスを日本に置き換えれば、それは私たちにも当てはまるだろう。
親日派の著名投資家が著した本書は、日本と朝鮮半島、中国など北東アジアを中心に世界情勢を俯瞰(ふかん)。そこに著者の得意とする歴史的な考察を加えつつ、各国を比較・相対化することで各々(おのおの)の実態が浮かび上がる。
その現状と見通しは険しい。近年の日本における好景気は「紙幣を刷れば株価が上がる」という市場原理に則(のっと)っているだけで、巨額の長期債務残高など根本的な問題は解決しないという。世界を見渡しても、借金がない国は北朝鮮くらいしかない。どの国の中央銀行も政府を助けるために紙幣をありったけ刷るが、刷った後のことなど何も考えていない。
彼らは「ソフトランディングをするから、心配ない」と言うが、過去にそれができたためしはない。世界中の負債額が史上最悪の数字を記録する中、米中貿易戦争などによる悪影響が徐々に広がり「今後一~二年のうちに、私が生きてきた中で最悪の経済危機が起きる」と著者は予想する。=朝日新聞2019年2月16日掲載
編集部一押し!
- 朝宮運河のホラーワールド渉猟 ホラーはモキュメンタリーだけじゃない! 貴志祐介「さかさ星」など骨太な物語を味わえる3冊 朝宮運河
-
- みる 100%ORANGE「エルメスのえほん くるくるとステッチ」 鮮やかな職人技、そのままぎゅっと 最果タヒ
-
- インタビュー 「モモ(絵本版)」訳者・松永美穂さんインタビュー 名作の哲学的なエッセンスを丁寧に凝縮 大和田佳世
- 鴻巣友季子の文学潮流 鴻巣友季子の文学潮流(第19回) 翻訳が浮き彫りにする生の本質 小川哲、水村美苗、グレゴリー・ケズナジャットの小説を読む 鴻巣友季子
- トピック ポッドキャスト「好書好日 本好きの昼休み」が100回を迎えました! 好書好日編集部
- ニュース 読書の秋、9都市でイベント「BOOK MEETS NEXT」10月26日から 朝日新聞文化部
- インタビュー 寺地はるなさん「雫」インタビュー 中学の同級生4人の30年間を書いて見つけた「大人って自由」 PR by NHK出版
- トピック 【直筆サイン入り】待望のシリーズ第2巻「誰が勇者を殺したか 預言の章」好書好日メルマガ読者5名様にプレゼント PR by KADOKAWA
- 結城真一郎さん「難問の多い料理店」インタビュー ゴーストレストランで探偵業、「ひょっとしたら本当にあるかも」 PR by 集英社
- インタビュー 読みきかせで注意すべき著作権のポイントは? 絵本作家の上野与志さんインタビュー PR by 文字・活字文化推進機構
- インタビュー 崖っぷちボクサーの「狂気の挑戦」を切り取った9カ月 「一八〇秒の熱量」山本草介さん×米澤重隆さん対談 PR by 双葉社
- インタビュー 物語の主人公になりにくい仕事こそ描きたい 寺地はるなさん「こまどりたちが歌うなら」インタビュー PR by 集英社