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虐待、保育士不足…子ども取り巻く環境を議論するきっかけに 映画「あの日のオルガン」の平松恵美子監督

文:永井美帆、写真:樋口涼

戦争が題材でも原作はとても明るかった

――原作は、1982年に刊行された久保つぎこさんのノンフィクション『君たちは忘れない 疎開保育園物語』を今回の映画化に合わせて改題、加筆修整したものです。原作のどんなところにひかれ、映画化を決めたのでしょうか?

 映画化の話はこれまでも何度か持ち上がっては、様々な理由から頓挫してしまったそうです。私がこの疎開保育園の話を聞いたのは2014年でした。もちろん学童疎開については知っていたけど、保育園が疎開していたというのは初めて聞きました。さらに、疎開を言い出したのが20代の若い保母さんたちだとは。保育所の所長をもり立てて資金を集め、反対する親たちを説得し、疎開先では地元の人に頭を下げて食べ物を分けてもらう。誰もが自分のことで精いっぱいの時代に、彼女たちの強い意志がなければ実現できなかった疎開だと感じました。

 もう一つ、原作がとても明るかったんです。『君たちは忘れない』が出版された頃って、日本がすごく元気だった時代。50代になった当時の保母さんたちが「あの日」のことを思い出しながら、生き生きと語っている様子が伝わってきました。戦争を題材にすると、ともすると暗い映画になってしまいますが、そうではない話がここにはある。しかも、その真ん中に子どもたちがいるという事実に心を動かされました。

©2018「あの日のオルガン」製作委員会
©2018「あの日のオルガン」製作委員会

――この作品を通じて、描きたかったことは何でしょうか?

 命や平和の大切さというのは、繰り返し何回言っても言い過ぎじゃないと思います。加えて、この作品でもっと色々なものが表現できると思いました。例えばここ数年、保育士不足が問題になっていますよね。要因の一つには、まだまだこの仕事が軽んじられているということがあると思うんです。でも、子どもの命を預かる仕事が軽んじられて良いわけがない。最近、虐待のニュースなどを見る度、子どもたちが置かれている環境はどんどん厳しいものになっているとも感じています。この作品が、そうした問題を議論するためのきっかけになれば良いなと思っています。

 でも実際は「映画化する」って考えた時、卒倒しそうでした(笑)。現場に小さい子が数人いるだけで大変なのに、こんなにいるんですから。映画には30人くらいの子どもが出演していますが、それぞれの細かい演技については保母さん役の役者さんにお任せすることにしました。特に大原(櫻子)さんは撮影以外でも面倒を見てくれたので、子どもたちも笑ったり、泣いたり、伸び伸びと演じられたんじゃないかと思います。

©2018「あの日のオルガン」製作委員会
©2018「あの日のオルガン」製作委員会

正反対の2人の保育士が照らし合う物語に

――今作は監督とともに脚本も手がけています。原作は当時の保母さんたちに取材してまとめたノンフィクションですが、そこからどのように物語を作っていったのでしょうか?

 原作者の久保さんから否定されることも覚悟して、枝葉をばっさりと切り落とし、極力シンプルにしました。主人公を楓先生とみっちゃん先生にしたのは、正反対の2人が照らし合うような作品にしたかったから。責任感の強い楓先生には、畑谷さんというモデルがいます。楓先生はとにかくいつも怒っているんだけど、その根っこには子どもたちへの愛情があります。今、パワハラが問題になっているのは、愛情を持って叱れない人、愛情を持って叱られたことがない人が増えているからじゃないでしょうか。でも、リーダーだけが主役だとつまらない。そんなリーダーを新米保母さんが見ているような物語が良いと思い、みっちゃん先生を描きました。彼女は特定の誰かをモデルにしたわけではなく、いろいろな人の要素が詰まっています。枯れ葉まみれになって、子どもたちと夢中で遊んじゃうような先生だけど、その純粋さは最後まで変わりませんでした。お国の言うことが絶対の戦時下にあって、彼女の真っすぐさは映画の中の希望になっています。

――監督は長きに渡って山田洋次監督の現場を支えてきました。今作のキャストやスタッフは「山田組」の方々が多く関わっていますね。

 中でも疎開先の世話役、作太郎を演じて頂いた橋爪(功)さんはいち早く出演を決めてくれました。今回は低予算の作品だから、「この出演料では難しいんじゃないかな」って思っていたんです。でも、飲みの席で一緒になった時に「こんな映画を撮ろうと考えていて、橋爪さんにやって欲しい役があるんです」って、まだ脚本も完成していないのにお話ししました。そしたら、その場でマネジャーさんに電話してくれて、「スケジュール空けておいてくれよ!」って即決。橋爪さんとは「東京家族」や「家族はつらいよ」など、何本も一緒に作ってきたので、「今回はサービスしてやろう」って思ってくれたのかもしれませんね。その気持ちがとてもありがたかったです。

©2018「あの日のオルガン」製作委員会
©2018「あの日のオルガン」製作委員会

――学生時代から映画好きで、年間300本を鑑賞していたと伺いましたが、本もよく読みますか?

 読みますね。少し前はフェルディナント・フォン・シーラッハにはまりましたし、基本的に本屋さんでの出会いを大切にしています。「ジャケ買い」が好きなんですけど、最近はライトノベル風の装丁が多くなっていて、ちょっと不満ですね。ずっと読んでいる作品もあります。落ち込んだ時じゃないけど、読むと元気になるのが大崎梢さんの『クローバー・レイン』という小説です。ある書籍編集者が偶然手にした原稿を書籍化するために奔走する物語です。本づくりにかける真っすぐな思いが伝わってきて、読む度にものづくりの初心に戻ることができる、大切な1冊です。

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©2018「あの日のオルガン」製作委員会
©2018「あの日のオルガン」製作委員会