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本を発見することは最高のアドベンチャー 映画「マイ・ブックショップ」のイザベル・コイシェ監督

文:石井広子、写真:斉藤順子

――原作『ブックショップ』を映画化しようと思ったきっかけはなんだったのでしょう?

 10年ほど前、ロンドンの古書店でたまたまこの小説に出会ったんです。実は、原作者ペネロピ・フィッツジェラルドさんの本を読んだことはなかったのですが、英国では有名な作家であることは知っていました。でも私が初めてこの本を手にした5年前に、既に亡くなっていたんです。

 舞台はロンドンから遠く離れた海辺の小さな町。主人公フローレンスが書店を開き、経営しようと奮闘するストーリーです。あらすじもキャラクターも、心に響くものがあったのですが、本を読んでいるときはもし映画にしたらどうしようとは考えていませんでした。でも読み終わったときに、映画にしたいと心の底から思いました。直面する様々な障害をものともせず、夢に果敢に挑戦するフローレンスの生き方に共感したからです。

――映画化する際、もし作家がご存命だったら、取材をしましたか?

 はい、お会いしたかったですね。でもご家族にはお会いできたんです。今回登場するクリスティーンという少女の役柄は、著者のお嬢さんであるティナさんが過ごした50年代頃の少女期がベースになっているんです。

 原作を読んだのち、すべての著書はもちろん、著者の伝記も手紙も読みました。ペネロピさんは、とても強い人間だったのではと想像します。彼女自身、非常に辛い結婚生活だったようで、3人のお子さんとテムズ川の大きな船で暮らしていたそうです。でもある日、家族が帰宅したら、船が沈んでしまっていて、すべてを失い一から始めなければいけなかったようです。また本を出版し始めたのが60歳代だったということにもすごく興味深く思いましたし、今、生きていたらこの作品についてどんな感想をおっしゃるか気になりますね。

――原作者のペネロピさんのご家族は、映画をご覧になりましたか?

 初めてスクリーンで上映した際、著者のお嬢さんのティナさん、著者のお孫さんが来てくださり、作品を見て涙を流してくださったんです。映画化する場合、どうしても原作どおりにはできないので、原作と異なる点についても、作家のご家族の了承がとても重要でした。それだけに作品を誇りに思い、感動してくださったのがうれしかったですね。

© 2017 Green Films AIE, Diagonal Televisió SLU, A Contracorriente Films SL, Zephyr Films The Bookshop Ltd.

――原作と異なるというのは、具体的にどのようなシーンですか?

 まずはエンディングです。これが一番大きな違いだったかもしれません。脚色するにあたっては、核となる部分だけはなるべく忠実に描きました。実は原作のエンディングは、落ち込んでしまうような暗い形でした。でも私は映像作家の義務として、リアルを描写しながらも、希望のある物語として描きたいと感じました。なぜなら、希望なくして人はどのように生きていったらいいのかって思ってしまうから。フローレンスが自分の住む小さな社会で立ち向かった姿を通し、戦う勇気を描きたかったのです。その意図を原作者のご家族に伝えたら、本と映画というのはつながりがあっても、違うメディアであると理解してくださったんです。

 次に違うのは、書店でフローレンスの助手として働く少女、クリスティーンのキャラクター。原作では社交的な性格ではなく、やや我が強いところがありました。主人公のフローレンスには子供がいない。またクリスティーンの母親は忙しすぎて、自分の子供に対して一緒にいる時間を割いていない。そんな二人が関係を築いていく過程に、すごく可能性を感じたんです。ですから、最初はぎこちなかった二人が心を通わせ、素敵な関係になっていくように膨らませました。

 また物語の鍵として登場する文学作品にもこだわりました。フローレンスは、同じ町に住む引きこもりの老紳士ブランディッシュへ、推薦する数冊を届けます。そのうち、ウラジミール・ナボコフ著『ロリータ』は原作どおり。ですが他の本に関しては、変えているんです。本好きなブランディッシュにとって、全く読んだことのない本は、新たな世界が開くことになると思いました。そこで、私が大好きなレイ・ブラッドベリの『華氏451度』を新たに足したんです。

 この小説は、今の時代を表すメタファーともいえると思うほどお気に入りの作品です。フランソワ・トリュフォー監督によって映画化もされていて、それも好きなんです。映画「マイ・ブックショップ」の中で、大人になったクリスティーンによるナレーションの声は、ジュリー・クリスティという役者が担当しています。彼女は映画「華氏451」の主演でもあるわけなんです。ですから、すべてつながっているんです。

――映画化するにあたって俳優への演技指導や構成でこだわったところは?

 私の場合、キャスティングがとても鍵なんですよね。映画作りにおいて。50%はキャスティングにかかっているともいえます。また私と役者が互いに信じ合えるかが大切。監督と役者との信頼関係が成り立てば、作り手が欲しているものすべてを手にすることができるからです。さらに役者に自由を与えること、刺激を与えること、役者はクリエイティブであること、この3つが鍵だと思っています。

 主役を演じた俳優エミリー・モーティマーは、大学でロシア文学を学び、読書家であることも重要な点。実は役者で本を読む人はあまりいないんです。脚本は読むのに読者家じゃない。エミリーはもちろん、ガマート夫人役のパトリシア・クラークソンも、ブランディッシュ役のビル・ナイの3人とも文学の造詣がとても深くて。役者が本を意義深く思ってくれていれば、それが観客に伝わります。また、私がインスピレーションを受けた映画や本をシェアして、自分の感性を知ってもらうことにも努めました。

――主人公のフローレンスと自分が似ているところはどんな点ですか?

 ナイーブになるときがあること、人のことを簡単に信用してしまう嫌いもあること。また本に対しては深い情熱を持ち、本の楽しさを他の人と分かち合う――そんな人間でもあります。また自分の行動の結果を、ものさしで事前に計ったりせずに実行します。どんな最悪の状況でも、不屈の努力を重ねるところも彼女に近いと思います。

© 2017 Green Films AIE, Diagonal Televisió SLU, A Contracorriente Films SL, Zephyr Films The Bookshop Ltd.

――最初の方の場面で、主人公のフローレンスは町の有力者に招待され、いやいや赤いワンピースを着てパーティーに参加していました。その色には監督のどんな意図がありますか?

 舞台となる海辺の町は一見すると、非常におだやかで素晴らしい町に見えます。でもそこには保守的な空気が漂っている。新調したワンピースの赤い色は、彼女の夢を阻む悪が町に潜んでいるということを示唆しています。彼女は洋服店で試着した際、自分の好みじゃないし、着心地悪いと感じる。でも店主の押しに負け、渋々赤いワンピースを購入し、パーティーに参加。するとイギリスの上流社会のファッションの中で、明らかに浮いてしまう。小さなコミュニティの悪の存在を初めて感じるシーンです。フローレンスにとって、書店の開店に反対し嫌がらせをしてくる勢力を初めて感じる場面、または見え始める瞬間なのです。町の有力者たちは、彼女よりも優れたことを成し遂げたい、また財産や称賛を得たいがために、開店を阻止しようとするのです。

――書店は日本でも少なくなってきている現状があります。監督は本をネットで買います? それとも書店で買いますか?

 本屋さんに関しては、世界中、どの国も同じ状況です。私は本屋さんで買っていますよ。つらつら本を眺めるのが好きだから。歴史に関する本、旅行記、随筆、お料理本、スリラーも読みます。最近はまっているのは、サリー・ルーニーというアイルランドの作家の『Normal People』という小説。この作家は若いのに、とても素晴らしいです。

 ネットで本を買うのは、本当にまれ。すごく好きな本があって、どうしても見つからないときくらいです。ネットショップのアマゾンを見ると、リコメンド機能があるじゃないですか。「これをお読みになった方はこんな本もお読みになっています」。あれが大嫌いなんです! 私は本を発見するのは、最高のアドベンチャーだと思うんです。だからこの原作『ブックショップ』に巡り合うことが出来、映画化にもつながったわけですから。

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