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「なぜ必敗の戦争を始めたのか」など、今週注目の新書4冊(朝日新聞2019年3月9日掲載)

『なぜ必敗の戦争を始めたのか』 

 副題は「陸軍エリート将校反省会議」。旧陸軍将校らによる親睦組織「偕行社」の機関誌「偕行」で、1976年12月号から15回にわたり、「大東亜戦争の開戦の経緯」と題する座談会が掲載された。出席者は、対米英開戦時の陸軍中央部の中堅参謀たち。彼らは、当時支配的だった陸軍悪玉・海軍善玉論に疑義を呈し、三国同盟以後、日米開戦に至る経過や思いを語った。それを編集し直し丁寧な解説を付した本書は、歴史を見る目を鍛えてくれる。
★半藤一利編・解説 文春新書・950円

『親を棄(す)てる子どもたち』

 高齢者人口の増加に伴って、介護や医療制度と同時に孤独死や「棄老」の現状がクローズアップされている。著者は、40年前に実母の介護に体当たりで関わり、現在は「高齢者相互扶助システム」の実践に取り組むノンフィクション作家。オレオレ詐欺に引っかかった高齢の男性が家族からの厳しい叱責(しっせき)で自殺に追い込まれたケースや、遺骨の引き取りを拒否するケースなど、家族のありようの変化と問題を指摘する。
★大山眞人著 平凡社新書・886円

『世界史を「移民」で読み解く』

 〈人類・民族の「大移動」とは何だったか〉〈世界の「交易」はいかに結びついたか〉など、「人の流れ」から世界史をとらえる。ユーラシアの東西を結びつけた遊牧民、アジアを含む異文化交易圏を作ったムスリム商人のネットワークなどにも着目する。
★玉木俊明著 NHK出版新書・842円

〈いのち〉とがん

 出生前診断やゲノム医療など福祉や医療の取材に関わったNHKの元ディレクターが、自身の膵臓(すいぞう)がんの再々発からほぼ9カ月にわたり、現実を客観的に捉え、患者の立場から考えた記録。これまでの取材の蓄積が、納得する治療を受けるために必要な知識と思考を支えた。生涯で2人に1人ががんを経験する、といわれる時代に、多くの示唆を与える。
★坂井律子著 岩波新書・886円