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時代の精神を示す12人の語り イルメラ・日地谷=キルシュネライトさん「〈女流〉放談 昭和を生きた女性作家たち」

イメルラ・日地谷・キルシュネライトさん=篠田英美撮影

 男児を偏愛する独身女性を通して性の倒錯を描く河野多恵子の出世作「幼児狩り」、胎児を中絶するシーンが生々しい瀬戸内晴美の短編「雉子(きぎす)」――。
 「1960年代の日本の女性文学が、これほど大胆に詳しく『性』を扱っていることが衝撃的かつ新鮮でした。当時のヨーロッパ諸国で女性がセックスを書くなんてありえないし、印刷できなかったはず。ある意味、非常に自由な社会だったと」
 西ドイツ出身で、東京大学への留学などを経て日本文学研究者の道を歩み始めた。82年春、3カ月ほど日本に滞在した。この時に挑んだのが、著名な女性作家への突撃インタビューだ。佐多稲子や石牟礼道子ら十数人に公衆電話からアポを入れ、自宅など指定された場所へ住宅地図を頼りに訪ね歩いた。
 高名な書き手の作品でも「女流文学」と呼ばれ、男性より過小評価された時代。女性作家として書くことにどんな困難があり、何が有利なのか。「『女にしか書けない』は、褒め言葉と思うか?」などの質問をぶつけた。対談した全員が「女流文学」という表現に不快感をあらわにしたが、他の問いへの答えは多様で個性的だった。
 例えば、大庭みな子は「産む性」である女性の方が男性より自信があると主張して譲らず、子どもがいない田辺聖子は「子育ては女からユーモアをなくす」と言って、部屋に飾ったぬいぐるみの“愛児”たちを自分にあいさつさせた。
 「若くて無名で恐れを知らない外国人の私は心から受け入れられ、同じ目線で会話が交わせた。女同士の『放談』でした」
 だが発表の機を逸して30年余り。冷凍保存されていたような録音テープが出てきた時、1年前に逝った日本人画家の夫と詩人の伊藤比呂美が「面白い」と背中を押した。健在な3人を含め遺族の許可が得られた計11人に加え、新たに瀬戸内寂聴からも話を聴き、1冊にまとめた。
 今によみがえる文豪の語りは驚くほど率直で、「#Me Too」運動がうねる現代人に歴史を教え、励ます。「文学は『人間とは何か』を知る大事な手段。その時代を生きた人々の精神を理解する貴重な情報源です」(文・高橋美佐子 写真・篠田英美)=朝日新聞2019年3月23日掲載