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片付けの手順は「だ・わ・へ・し」です 整理収納の達人・井田典子さんが講演

文:澤田聡子、写真:松嶋愛

 井田さんは23歳で結婚してから36年間、雑誌「婦人之友」を愛読してきた。3人の子育てをしながら、読者の組織「全国友の会」の会員として仲間と共に家事や育児などについて学び、整理・収納術にも興味を持つように。多大な影響を受けたのは、日本初の女性新聞記者にして婦人之友社の創業者、羽仁もと子の著作集の中にある「置き場所のきまった家」という文章だ。「家人が全員モノの置き場所を知っていて、使った後は元に戻す習慣と訓練が大切」という“片付けの極意”が、90年前に書かれていたことに驚いたという。

 90年前にはすでに答えが出ていた「片付け」問題、なぜ現代でも悩みが尽きないのか。井田さんは「家の中にどんどんモノが入ってくるのに、手放したり捨てたりという『家から出す』作業が圧倒的に少ない。いわば“モノの代謝”がうまくいっていないのが問題」と指摘。「お買い得だから」と衝動的に買い込んで家にストックするのは今日からやめ、「今あるものを使い切って、必要になってから買うようにしてほしい」とアドバイスする。

 続いてスクリーンに映し出されたのは、実際に整理・収納のカウンセリングをした家の写真。夫の仕事道具が食卓にひしめくダイニング、2棹あるタンスに入りきらない衣服がぶら下がる中、成人した子どもたちと母親の3人が布団を並べて毎晩眠る6畳の和室……。

 家族4人のモノが複雑に入り交じる3DKの団地で井田さんがまず行ったのは「ゾーニング」。和室は長女、洋間は長男、夫の書斎コーナーはリビングの一角へ移動、と個人と家族の共有スペースを決め、それぞれの場所を管理する「責任者」をはっきりさせることから始めた。不要品を処分して片付けを進めた結果、モノはそれぞれあるべきところに収まり、どの部屋も快適な空間に。見事な「ビフォー&アフター」ぶりに会場からは驚きの声が上がった。

 「家が狭くて収納スペースが足りないとおっしゃる方が多いんですが、片付けに部屋の広さは関係ないんです」。きっぱりと話す井田さんが提唱する片付けの手順は「だ・わ・へ・し」だ。

  • だ=「出す」。しまっている場所からモノをすべて出す

  • わ=「分ける」。種類や目的ごとに分類して並べる

  • へ=「減らす」。今よく使うもの、譲るもの、処分するものに分けて残すものを選ぶ

  • し=「しまう」。分類ごとに出し入れしやすい場所に収納、という4つのステップを指す

 井田さんの母が実際に整理に困っていたという「キッチンの引き出し」を例に挙げながら、「だ・わ・へ・し」のコツを詳しく解説。「まだ使えるものを捨てることに抵抗を覚える方も多いと思います。そういうときは“今、使うものを選ぶ”と頭を切り替えましょう」

 またモノが多いとついケースや仕切りなどの収納アイテムに頼りがちだが、片付ける際に「収納用品は新たに買い足さないでくださいね」と呼びかける。お金をかけずに家をきれいにできる整理・収納のことを「0円リフォーム」と称していると笑った。

 最後は、2018年より娘夫婦と暮らし始めたという自身の二世帯住宅をすべて公開。出しっ放しのモノが全くない床やダイニングテーブル、一目でどこに何があるか分かるよう整理された引き出しやクローゼットなどが映し出されるたびに会場からはため息が漏れる。「保険証券などはじゃばら式ファイルにひとまとめ」「ダイニングで使う文房具は食器棚の引き出しに」「服は1アイテム5点主義」「万が一の連絡先と自分に関する覚え書きを記した“カプセル・シート”の活用」など実践的な整理・収納術の数々に、熱心にメモを取る人の姿も目立った。

 「片付けは自分に向き合う作業」と語る井田さん。「一見きれいなんだけど、押し入れや引き出しの中はごちゃごちゃという家をたくさん訪問してきました。真面目な人ほど、片付けられないことが心の負担になっているんですよね。家の中がすっきりして風通しが良くなれば、自己肯定感も上がります」