――結婚を機に北海道から上京し、絵本作家を志したかさいさん。偶然目に留まった絵本コンクールで見事受賞し、その後、次々と作品を発表してきた。『ぼくとクッキー さよなら またね』(ひさかたチャイルド)を作るきっかけとなったのは、当時の担当編集者から突然「会社を辞めてモルディブに行ってきます」と告げられたことだったという。
そのことが私の中ではとても衝撃的でした。彼女はお母さんと二人暮らしだったので、飛び立つ方は未来に向かってウキウキしているけど、残されるお母さんの気持ちってどうなんだろう?と思ったんです。お母さんとしては、今までの生活から自分の子供がいなくなるわけでしょう。その寂しさというのは、きっとパズルの真ん中がひとつ抜けたようなものだと思うんです。それが子供同士だった場合、仲のいい子が急にいなくなるようなもので、残された方の気持ちをお話にしたいと考えました。
――本作は、毎日一緒に遊ぶのが当たり前だった仲良しのこぐま「ぼく」と「クッキー」の友情を描いた物語。ページをめくると、キラキラと水面が輝く川や、光が降り注ぐ森など、2匹のこぐまが自然の中でのびのびと遊ぶ様子が、あたたかな色使いで描かれている。このような自然描写は、自身の北海道で過ごした経験からくるものかと思いきや、「そんなに北海道を意識したわけではない」とかさいさんは話す。
この作品を見た人の9割以上から「やっぱり北海道で育ったからこんな自然が描けるのね」って言われるんですけど、森の中に住んでいたわけではないので(笑)、私自身はあまり関係ないと思っています。自然は日本中どこにでもあるから、例えば、木漏れ日は近所の公園にある木を下から見上げたり、温泉に行った時に見た風景を参考にしたりしました。
――別れ際にはいつも「さよなら またね」と言い合っていた「ぼく」とクッキー。ある日、いつものように「ぼく」がクッキーに「さよなら またね」と言うと、クッキーは「さよなら」しか返さない。その日の夕方、クッキーは母親と一緒に「ぼく」の家にやってきて、明日引っ越すことを伝える。突然クッキーがいなくなってしまうことを知った「ぼく」は、ずっと一緒に遊ぼうねと約束したクッキーに対して怒ったり、さみしくてブランケットに包まり「どうしよう」と悩んだり、様々な感情に駆られる。
最近の若い人や子供の中には、自分が悲しむのが嫌だから人と深く付き合わないようにしたり、誰かと喧嘩したくないから自分を大事にしすぎたりして、感情の起伏を抑えている人が増えている気がします。生きていれば良いことばかりじゃないし、辛いことや苦しいこと……たくさんのことがありますよね。嬉しかったり悲しかったりするのは心が揺れるということ。心は揺れていいし、私たちはロボットではないのだから、揺れなきゃ困ります。なので、主人公の「ぼく」がその時思った感情をストレートに描きました。色々な思いをたくさん経験して、スポンジみたいに自分の中に吸収して、少しずつ大人になっていけばいいと思うんです。
――主人公の想いや、感情の揺れを丁寧に描いた作品を数多く手掛けるかさいさんは、ストーリーを考える際、自分の中で鍵になる言葉や文章が必ずあるのだと言う。本作では、25ページに描いてある文章がそれにあたる。
さよならって いっても、また あえた。いつも いつも、また あえた。 でも、こんどの さよならは……。 「ぼくとクッキー さよなら またね」(ひさかたチャイルド)より
歌で言うとサビの部分ですね。私はこの作品で、この言葉を一番お話の中に入れたかったんです。その言葉を軸にして、前後の話の構成を考えることもありました。
生きていく上で「さよなら」をすることはたくさんありますが、子供にとって、その最初の相手が友達だと思うのです。それまでは親にべったりでも、保育園や幼稚園に通うようになって、お友達との関係がうまくいかなかったり、仲のいい子がいなくなったりしたら、そんな辛い毎日はないですよね。
私も小学生の時、一番仲良くなった子が転校してしまったことが6年間で3回あったんです。クラスメイトは他に何人もいるのに、すごく仲良くなった子に限って転校してしまって「私は好きになった人と別れる運命にあるのかしら?」と思ったこともありました(笑)。でも、お別れする時に「またね」って言えるような大切な一人と出会えたことが、すてきなことだと思うんです。
――「クッキーは引っ越した先でも元気にやっているかな?」「新しい友達はできたかな?」という読者の思いにこたえるように、引っ越した「クッキー」のその後を描いた続編『あえたらいいな』(ひさかたチャイルド)も手がけた。
このお話が出来上がってから割と早い段階で「続編を描いてほしい」というお話をいただいたのですが、残された「ぼく」の新たなお話というのを考えるのがなかなか難しくて。引っ越したクッキーが、新しい場所でお友達ができるという方のお話が先に頭に浮かんだんです。残された「ぼく」のお話はまだできていないので、いつか「ぼく」にも新しい出会いを考えてあげなくちゃと思います。