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平成の30冊・読者が選んだ私の1冊②SF、ミステリー…ジャンル小説の精華

『ハ―モニー』(伊藤計劃、早川書房、2008年)

 21世紀後半、〈大災禍(ザ・メイルストロム)〉と呼ばれる世界的な混乱を経て、人類は大規模な福祉厚生社会を築きあげていた。医療分子の発達で病気がほぼ放逐され、見せかけの優しさや倫理が横溢する"ユートピア"。そんな社会に倦んだ3人の少女は餓死することを選択した――。それから13年。死ねなかった少女・霧慧トァンは、世界を襲う大混乱の陰に、ただひとり死んだはすの少女の影を見る――。(早川書房ウェブサイトより)

・戦後としての「昭和」とは一線を画した「平成」の30年間。国内を見渡せば、総じて経済的な低迷状態が続き、様々な社会問題が露呈することはあったものの、戦争・紛争のような生活圏全般が人為的に破壊される事態は起こらなかった。その一方で,世界の少なからぬ地域では人命そのものが脅かされる状態が収束することはなく、それらは「ハーモニー」が描く生活圏の“無菌”状態と生活圏外の“混沌”状態に類似しているように思える。また、同書で鍵となる“健康至上主義”の政策は,(「健康日本21」のような)「平成」の日本政府が行ってきた健康・医療に関わる政策の極点として、行き着く先に起こる弊害を考えさせられる。「ハーモニー」は私たちがこの世界で“生きる”ことそのものを再考する機会を突き付ける。時代の節目にある今だからこそ,一読に値するだろう。(東京都・沈丁花)

・平成のSF、そして日本のSFを語る上で欠かせない、伊藤計劃という作家の最高の物語。遠い未来が舞台であるものの、現代の抱える問題の多くが本作で表面上は「解決された」ように語られている。「優しいユートピア」に生まれ変わった世界を、理想郷と呼べるのか否かは読者それぞれ異なるだろうけれど、しかし僕は世界中で叫ばれている「平和」とはこういう事なんじゃないかと思えてならない。人間である以上、軋轢からは逃れられない。生の影にある地獄からは逃れられない。ならばいっそ、人間である事を止めてしまえばいい。恐ろしくも魅惑的な問いかけが、どれほどの月日が経っても僕の心を捕らえて離さない。(兵庫県・MiyaHa)

 ※伊藤計劃さん(1974-2009)はデビュー作『虐殺器官』(早川書房、2007年)にも多くの支持が寄せられました。

「十二国記」シリーズ(小野不由美、新潮社・講談社、1991年~)

「王」と「麒麟」が織りなす、その世界の仕組みとは――「十二国記」とは我々が住む世界と、地球上には存在しない異世界とを舞台に繰り広げられる、壮大なファンタジー。(新潮社ウェブサイトより)

・少女向けファンタジーレーベルで誕生して、これほど老若男女に愛されたロングセラーファンタジーはないでしょう。平成の終わる今年に新刊が久々に出るというのも心滾ります。歴史大河小説のような骨太な魅力のある十二国記、これからも愛され続けてほしいシリーズです。(香川県・ふじむらゆか)

『姑獲鳥の夏』(京極夏彦、講談社、1994年)

 この世には不思議なことなど何もないのだよ――古本屋にして陰陽師が憑物を落とし事件を解きほぐす人気シリーズ第1弾。東京・雑司ヶ谷の医院に奇怪な噂が流れる。娘は20箇月も身籠ったままで、その夫は密室から失踪したという。文士・関口や探偵・榎木津(えのきづ)らの推理を超え噂は意外な結末へ。(講談社ウェブサイトより)

・他の小説家とは全く違う推理小説であり、オリジナリティがある。推理小説であるにも関わらず、密室などのトリックに重点を置いていない点や、人間関係や宗教、哲学的な雑談が多く、只の雑学知識が延々と書いてあり、一件関係ない無駄話のようなものも、破綻せずに事件の話に結びつくのが素晴らしいと思う。(新潟県・田中)

・皆さん忘れているようですが思い出してほしい、新書で出た「姑獲鳥の夏」を初めて目にし、手にとったときの、「何だこの本は」感。そして、ページをめくったときの、「何だこのデザインされているような活字のレイアウトは」感。そして探偵役京極堂の膨大なうんちくと「えっ、それって、あり?」という驚愕のトリック。平成を代表する探偵物、京極堂シリーズは、この作品から始まったんです。(埼玉県・ものはためし)

『リング』(鈴木光司、KADOKAWA、1991年)

 一本のビデオテープを観た四人の少年少女が、同日同時刻に死亡した。この忌まわしいビデオの中には、一体どんなメッセージが……恐怖とともに、未知なる世界へと導くオカルト・ホラーの金字塔。(KADOKAWAウェブサイトより)

・この本が映画化されて貞子のビジュアルが顔の見えない黒髪ロング白ワンピース姿になって以来、映像化される女性の幽霊はすべてこれ。(岡山県・よち)

『バトル・ロワイアル』(高見広春、太田出版、1999年)

某小説新人賞選考委員全員から、あまりの過激さゆえ落選させられた問題作!「中学生42人殺し合い」というゼツボウ的な青春を描いた問答無用、凶悪無比、デッド&ポップな<デス・ゲーム小説>の誕生!!(太田出版ウェブサイトより)

・1990年代~2010年代までの“雰囲気の変化”を象徴するものだと思う。発刊当時は世紀末的な雰囲気に毒された「ゲーム的な殺し合い」の発想が「不謹慎」だとかで非難されていたし、地域によっては読むのを禁じられていた。それでも大流行したし、目立ち始めた少年犯罪や、ゲーム的な殺人が起こる度に、一致はしなくとも『バトル・ロワイアル』の世界に近づいているように感じられた。最近では発刊当時の抵抗感も薄れたのか、若者は現実ではなくデジタルゲームでバトル・ロワイアルを娯楽として楽しんでいるし、大人も大人で『バトル・ロワイアル』の邪悪な独裁国家を志向しているように思えて面白い。(千葉県・江口隣太郎)

・クラスメイトたちと殺し合うという衝撃的な内容で物議を醸しましたね。でも読み進めていくと死ぬかもしれない状況をどう生き抜いていくかを丁寧に描いていて心に突き刺さりました。(静岡県・クリリン)

『涼宮ハルヒの憂鬱』(谷川流、KADOKAWA、2003年)

 校内一の変人・涼宮ハルヒが結成したSOS団(世界を大いに盛り上げるための涼宮ハルヒの団)。ただ者でない団員を従えた彼女には、本人も知らない重大な秘密があった!? 第8回スニーカー大賞〈大賞〉受賞作。(KADOKAWAウェブサイトより)

・オタク文化からクールジャパンへ、若者文化の一つであったライトノベルを日本のポップカルチャーへと押し上げる原動力となった記念碑的作品。(神奈川県・はっそ)

・平成になって隆盛してきたライトノベルのなかで一番有名な作品だと思う。(青森県・aya)

『白夜行』(東野圭吾、集英社、1999年)

 愛することは「罪」なのか。それとも愛されることが「罪」なのか。1973年、大阪の廃墟ビルで質屋を経営する男が一人殺された。容疑者は次々に浮かぶが、結局、事件は迷宮入りしてしまう。被害者の息子・桐原亮司と、「容疑者」の娘・西本雪穂――暗い眼をした少年と、並外れて美しい少女は、その後、全く別々の道を歩んでいくことになるのだが、二人の周囲に見え隠れする、幾つもの恐るべき犯罪の形跡。しかし、何も「証拠」はない。そして十九年の歳月が流れ……。伏線が幾重にも張り巡らされた緻密なストーリー。(集英社ウェブサイトより)

・章によって視点が色々変わるが、主人公たちのやりとりや心情は一切描かれず、読者にも秘密にされた二人の共犯関係の中で数々の犯罪を犯して行くという斬新な書き方に衝撃を受けました。とても想像力を掻き立てる作品でした。ドラマや映画化もされ、合わせて新たな解釈を楽しめました。(福岡県・りえっこ)

・東野圭吾は、平成を代表する作家の1人だと思う。個人的には、その最高傑作が「白夜行」だ。(東京都・みゆ)

 ※東野圭吾さんは直木賞受賞作『容疑者Xの献身』(文芸春秋、2005年)にも多くの支持が寄せられました。