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なんでもあり、かつ骨太な論理 草野原々「これは学園ラブコメです。」「大進化どうぶつデスゲーム」

 SF作家の登竜門ハヤカワSFコンテストの第4回で、アニメ「ラブライブ!」の二次創作小説を原案とした作品が特別賞を受賞し、SF界隈(かいわい)が騒然としたのは2016年のことだ。草野原々(げんげん)のデビュー短編「最後にして最初のアイドル」(同名のハヤカワ文庫JA所収・842円)である。

 非業の死を遂げたアイドル志望の少女が怪物となって復活、天変地異で激変した地球上で進化を繰り返し、ついには宇宙へ……。異形かつ宇宙規模のアイドルSFは、星雲賞など複数の賞を獲得。草野は先進気鋭のSF作家としてスタートを切った。

 そんな草野の初長編が4月18日に2冊同時に刊行された。『これは学園ラブコメです。』と『大進化どうぶつデスゲーム』(ハヤカワ文庫JA・842円)だ。

 『これは学園ラブコメです。』は文字通り学園ラブコメ……なわけがない。主人公・高城圭(たかしろけい)のいる学園ラブコメ世界はフィクションを台無しにする「なんでもあり」の侵略により、おかしなことになっていた。ラブコメとファンタジーとSFが話の主導権を奪い合うのは序の口で、混乱はストーリーにとどまらない。地の文とキャラが争って、「読者への挑戦状」が文字通りに立ち塞がり、小説の形式さえ崩壊する。本当になんでもありな様は大変笑えるが、同時に首の皮一枚で作品の完全な破綻(はたん)を防ぐ知的でスリリングな駆け引きの連続でもある。一見なんでもありな展開に、骨太なロジックを通して作品を成立させる……。そんな草野の創作姿勢が、そのまま物語になったような一冊である。

 一方『大進化どうぶつデスゲーム』は、猫が進化した宇宙とヒトが進化した宇宙の対決に巻き込まれた18人の女子高生が、ヒトの歴史を守るべく、800万年前の地球へと送り込まれる物語。多くの参考文献のもと臨場感たっぷりに描かれる新生代の生物相の中、サバイバル生活に挑む少女たちは、やがて過酷な試練に直面する。それぞれの少女の内面に寄り添い、複雑な関係性を丁寧に編み込んだ上で描かれるだけに、その決断は読者の胸を打つものになっている。「青春ハード百合(ゆり)SF群像劇」の看板に偽りなしの作品だ。

 新鋭の初長編、ぜひ2冊(あるいは既刊含めて3冊)まとめて、お読み頂きたい。=朝日新聞2019年4月20日掲載