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【第161回直木賞受賞決定】大島真寿美さん「渦 妹背山婦女庭訓 魂結び」 文楽の魅力、小説で「語る」

大島真寿美さん

義太夫にも挑戦「至福味わえた」

 近松門左衛門と同じ姓を名乗るが、半二は親戚でも師弟でもない。浄瑠璃狂いの父親に影響されて芝居小屋に入り浸り、父親から譲り受けた門左衛門愛用の硯(すずり)で自らも作者を志す。だが当時、人形浄瑠璃は歌舞伎に押されて客足が途絶えがち。そうした逆境のなか大ヒットしたのが、「妹背山婦女庭訓」だった。

 大島さんは中学時代から地元、名古屋市の御園座に通う歌舞伎好き。編集者から「歌舞伎の小説を」とリクエストされるも断っていたが、ふと「『妹背山婦女庭訓』なら何かが書ける」と思えた。「他の演目と受け取るものが違って、気になっていた」。ルーツを知ろうと、2015年に東京・国立劇場で初めて文楽を観劇。桐竹勘十郎さんの遣う人形に心を奪われた。

 「(町娘の)お三輪ちゃんが本当に素晴らしくて。お三輪ちゃんそのものだったんですよね。魂がそこにあるみたい。文楽ってすごいなと思って、一から勉強しました」

 現役人形遣いへの取材も重ねたが、それだけではない。「文楽を見始めた時からずっと、義太夫をやってみたいっていう欲望があって」。本作を文芸誌に連載中の18年4月から、太夫(たゆう)の豊竹呂太夫さんが大阪で毎月開く義太夫教室に通い、今年3月には初めての発表会にも臨んだ。

 11年の『ピエタ』で本屋大賞3位、14年の『あなたの本当の人生は』で直木賞候補になった作家歴27年のベテランだが、「今回は楽しさが突き抜けちゃって。あまりに楽しくて、もう頭がおかしくなっちゃったのかもしれないと思うくらい。大変さを上回る至福を味わえたので、もう死んでもいいかも」と笑う。

 本作は大阪弁をベースに、せりふが地の文に溶け込むような文体でつづった。「デビューした頃はちゃんとカギカッコで書いてたんですけど、だんだんでたらめな文章になって」。だが、浄瑠璃の文章を追っていて気がついた。

 「情景描写から急に会話になったりとか、その感じは自分でもすごくなじみがあるというか、やりやすい。私は先祖返り的にカギカッコを無くしていっていたのかも」。そして、こうも話す。「私は文章で語りをやりたかったのかな、と思いました」

 「妹背山婦女庭訓」は5月11~27日、東京・国立劇場で15年ぶりに通し上演される。この偶然に「半二が文楽を盛り上げたいって言っているんじゃないか」と大島さん。「脚色される歌舞伎と違って、文楽は作者の書きたかったものがそのまま味わえる。物語が好きな人にとっては、文楽ってすごく面白いと思います」(山崎聡)=朝日新聞2019年4月24日掲載