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「施設とは何か」「学校ハラスメント」 「無力化」が生まれる場所で問う 朝日新聞書評から

評者: 本田由紀 / 朝⽇新聞掲載:2019年04月27日
施設とは何か ライフストーリーから読み解く障害とケア 著者:麦倉 泰子 出版社:生活書院 ジャンル:福祉・介護

ISBN: 9784865000900
発売⽇: 2019/02/16
サイズ: 21cm/283p

学校ハラスメント 暴力・セクハラ・部活動−なぜ教育は「行き過ぎる」か (朝日新書) 著者:内田 良 出版社:朝日新聞出版 ジャンル:新書・選書・ブックレット

ISBN: 9784022950123
発売⽇: 2019/03/13
サイズ: 18cm/237p

施設とは何か ライフストーリーから読み解く障害とケア [著]麦倉泰子/学校ハラスメント 暴力・セクハラ・部活動―なぜ教育は「行き過ぎる」か [著]内田良

 「施設」とは何か。麦倉泰子が丹念に綴るのは、障害をもつ人たちとその家族、そこで働く人たちによって、「施設に入る/施設で暮らす/施設を出る」ことがどのように語られるか、自らのアイデンティティや人間関係など「人生そのもの」にとって「施設」がどのような意味を持っているか、ということである。
 子どもが障害をもつことが明らかになったとき、親はまずショックを受け、学校・地域・親族からの疎外を経験し、専門知識によって対抗するが、「親亡き後の不安」から子どもを施設に入れることを選ぶ。本人が「障害者」であることを受け入れて施設になじむ場合もあるが、施設に対して不信を向けるケースもある。
 施設の内部では、物理的・社会的な隔離生活と、「できない人」を基準とする一律のルール、身体そのものが他者に管理されることによる自尊心の低下など、入所者が「無力化」される事態が生じている。こうした状況を職員もよしとしているわけではないが、少人数で大人数を介護するという施設の条件下では、個々の入所者の外出等の希望に応えたり、ゆっくりと話をしたりする余裕はない。
 こうした施設を出て地域で生活することを選択する当事者もいる。一定のリスクや負担はあっても、自らの生活を自ら決めることの自由と充実は何物にも代えられないと彼らは語る。必要な援助は受けつつ〝私のことは私が決める〟という「支援を受けた自己決定」の原則は、「無力化」とも、結果のすべてを当人に押し付ける自己責任の考え方とも、対極に位置づく。英国でのパーソナル・アシスタンスの展開をふまえて、本人の意思形成そのものを支える必要性を著者は説く。
 本書を読みつつ思ったのは、「無力化」は障害者施設のみで起きているのではないということである。内田良が『学校ハラスメント』で描くのは、一方で「指導」の名のもとに行われる暴力やセクハラ、危険であるにもかかわらず続けられる巨大組み体操、他方で部活動顧問を強いられ、生徒からの暴力の対象にもなる場合がある教師の苦しみである。生徒を伸ばす場であるはずの学校の中で、生徒を管理し押さえつけるための行為が広がり、逆に教師の側もある種の被害者である実態がある。
 〝あなたは何を望んでいますか、それを実現するために私(たち)に何ができますか〟という、個々人を尊重する問いかけは、諸々の「施設」、そして今の社会全体の中で、圧殺されがちである。だからこそ、援助のための費用や人員を確保する努力に加え、この問いかけをすべての者の胸の中にくっきりと刻む必要がある。
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 むぎくら・やすこ 1974年生まれ。関東学院大教授(福祉社会学)。共著に『共生の社会学』など。▽うちだ・りょう 1976年生まれ。名古屋大准教授(教育社会学)。著書に『ブラック部活動』など。