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フルポン村上の俳句修行 新宿・歌舞伎町を根城にする俳句一派に参戦(C-C-Bもいるよ)【前編】

文:加藤千絵、写真:樋口涼

 入り口から延びているのは、人ひとりがギリギリ歩ける幅の真っ赤な急階段。足を踏み外さないようにそろそろ上っていくと、10畳くらいのスペースにバーカウンター、その向こうに城主・北大路翼さんの姿がありました。北大路さんこそ、歌舞伎町を根城とする俳句一派「屍派」の家元です。

「砂の城」は現代美術家の会田誠さんが主宰するアートサロンだったところを、北大路さんが受け継いだ
「砂の城」は現代美術家の会田誠さんが主宰するアートサロンだったところを、北大路さんが受け継いだ

 小学生の頃から「酒を飲んで暴れるダメな大人に憧れていた」という北大路さん。「とにかく世の中がバカで、こんなバカと一緒にいてもおもしろくない。ずっと死にたい死にたいって言ってたんです」。そんなとき、種田山頭火の「さくらまんかいにして刑務所」という句に出会い、ぴたっと来たと言います。

 「生き方に憧れてたからね。破綻した人間、本当の“廃人”のアクセサリーとして俳句がいいと思って始めたんです」。山頭火をまねて、毎日書く日記の最後に自由律の句を書き留めていましたが、高校の担任が俳人の今井聖さんになり、有季定型の俳句に目覚めます。「そこで初めて歳時記を買ったらすべてがおもしろくて。僕、辞書とか図鑑マニアだから、お花の名前も和名があって、いろんな言い方があるのを知ったらもう、うれしかったですね」

 それから今に至るまで、仕事中もお酒を飲んでても寝てても、北大路さんは24時間ずっと俳句を作り続けていると言います。家元を務める「屍派」は、歌舞伎町で作家の石丸元章さんと出会い、俳句をコマ劇場なき後の新名物にするべく、歌舞伎町で俳句イベントを始めたのが原点。結社のように雑誌を出していなければ決まりもなく、基本的に実体はないとのことですが、主に「人間関係の葛藤のようなもの」をテーマに、北大路さんの気の向いた時に句会を開いています。

 「予定を立てるのが大嫌い」と言われてドキドキしていた4月25日午後8時、約束の日時に村上さんと訪れると、句会のメンバーを集めてくれていました。紹介された通りに書くと、北大路さん、村上さん以外の参加者は以下の8人です。

・句会を仕切っている木内龍(たつる)さん・ゆり子さん夫妻
・インドと日本を行き来しているゆかりさん
・パンツを買い替えたばかりのゆーきさん
・「おそうぢくん」と呼ばれている本名・そうぢさん
・糖尿病のおさじさん
・見た目は女性だけど男性で、アメリカ生活が長く日本語が特殊なこゆきさん
・C-C-Bの関口さん

 句会はバーからさらに1階上がった部屋で開かれます。人ひとり分の幅の階段なのに、酒の瓶などが無造作に置いてあり、また上るのに一苦労。絨毯敷きで10人も入ればいっぱいのスペースで車座になり、句会が始まりました。屍派は今までの句会とは違い、事前の宿題がありません。その場でお題を出して、5~15分で句を作り、できたら短冊に書いて「壺」(といっても日本酒の箱)にどんどん入れていきます。「ネタの出し合いだから、(推敲を重ねて句が)できる前に見せてみんなで直していく。句会は練習の場だと思ってるから、完成を求めてないんですよ」と北大路さん。大事なのは、即席の句に対するリアクションをみんなで楽しむことです。

 「あなたがなんか題出して」と筆者に振られて、「倒の字を入れた句」をお題としました。理由は「この建物が今にも倒れそうだから」と言うと、「『崩れる』だろ」と突っ込まれつつ(砂の城ですもんね)、「倒」の字題で句作がスタート。初参加の村上さんがいるので長めの15分、時間を取りました。静けさとたばこの煙が部屋に充満していく中、おもむろに口を開いたのは関口さんでした。

関口:本当のC-C-Bなんで。にせものじゃないんで。予想では俺、「本物ですか?」って村上さんが反応してくれると思ったんだよ。今まで一向になんのリアクションもないから、「だから何だ」っていう風に思われてるのかなって。

村上:すいません! いや、本物かなって思いましたよ。

こゆき:初めて会ったとき、絶対にせものだと思ったよ。C-C-Bって言われたから、そういうあだ名のオッサンなのかと思って。

関口:俺はそれは別になんとも思わなかったけど、村上さんの今日のリアクションのなさはあまりにもつらくて、耐えきれなくって言っちゃった。

 「Romanticが止まらない」のヒット曲で知られる本物のC-C-B・関口さんは現在、主にアーティストに楽曲を提供しているとのこと。偶然「砂の城」で飲んでいたときに句会が開かれていることを知って、「季語を全く無視していいって言うから、何を書いても許されると思って」参加するようになったそうです。

 締め切りの時間がきて、壺に集まった作品すべてを木内龍さんが読み上げていきます。無記名の句に対し、容赦のない意見が飛び交います。(ここでは作者を記名しています)

倒立で暇を潰すや夏隣 ゆーき

北大路:池谷(幸雄)みたいなヤツだな。なんとなく夏に向けてさらに鍛えてる感じはある。でも芸人の控室ってこんな感じじゃない? なかやまきんにくんとかしてそう。

村上:人によって鍛えてる人もいればゲームの人もいるし。そういう中の一つとしては確かにありかも。

関口:ワッキーさんとかしてそうですよね。

村上:鍛えてる人は結構いるかもしれないですね。倒立はなかなかいないですけど。

龍:でも倒立で暇を潰す、って言葉を見つけたのはすごいな。

北大路:さすが、パンツ変えたて。

倒置法をやたらと使ふ新社員 ゆかり

一同:(笑)

北大路:デブの女かな。人の前に絶対出てこないんだよな。遠近法か、デブは。

ゆかり:倒置法は「これは句会だ、屍派の」みたいな。

北大路:「昨日やっちゃった、社長と」みたいな。

龍:そうやって私ってすごい人なんだよ、っていう感じを出したい人なんだね。でも新社員はうまいかもしれないな。季節とも合ってるし。とにかく新社員ってだいたい9割くらいイラッとくるんだよ。それをこの人は「倒置法を嫌だ」と思った、っていうのはよく分かる。

俳句部が入学式で皆倒れ 翼

龍:俳句部が新歓コンパみたいなので新入生にめっちゃ飲ませて・・・・・・。

北大路:ひ弱なんだよ。

村上:大学生ってことですか? 高校生の部活じゃ・・・・・・?

北大路:「部」だからね。貧血の俳句甲子園です。夏井いつきさんに怒られちゃうな、これ。

春の闇倒れたままのビール瓶 村上

北大路:うまいだけだな。うまいけど、だからどうしたのって感じ。

こゆき:ビールはあまり闇を感じないかな。(高級シャンパンの)アルマンドとか、そっちの方がまだ闇を抱えてると思う。

北大路:春の闇じゃなくて「父の日」とかいいかも。

龍:父の日や倒れたままのビール瓶(笑)。

北大路:「こどもの日」とか「昭和の日」がいいんじゃない? 切なさもある。村上さん、まじめなんだよ。70点だな、これは。

村上:おもしろみがないですね。

北大路:芸人だからね、笑いも大事にしてほしい。

背もたれを倒すレバーに春の指 村上

一同:あ~。

北大路:これ最後変えたいね。「背もたれを倒すレバー」まで最高によくて100点なのに、下五がマイナス200点くらいあるよね。「春の昼」とか「春の旅」がいいんじゃない? どっか行ってる感じがして。

村上:これ僕です。思いつかなくて。

北大路:今日は特別に自分の句を説明してもいいよ。守ってあげないと。他人の句と思わせといて、ほめてもいいし。

倒立の爪先に来る紋白蝶(短冊では蝶→鳥) 翼

龍:仙人ぽい。ドラゴンボールでありそうだよね、そういう瞬間。

関口:蝶が止まるくらい揺れないんだからね。内村航平並みのね。

龍:ただ「蝶」の字が「鳥」になってるのが俺は気になる。

北大路:ひどいね。

龍:この漢字書けない人は誰?

北大路:すいません。

新小岩駅にも転倒防止柵 龍

一同:お~!

北大路:転落防止柵じゃないの。そんなのないだろ。

村上:そうですよね、転倒は個人の問題ですよね。

ゆかり:でも新小岩駅を馬鹿にしてる感じがいい。

北大路:本当は池袋とか、盲学校があるところに最初につくるんだよね。(高田)馬場が早かったのは盲学校があるからなんだよ。ちゃんと意味があるんだよね。

倒れてなおまだ生きてると東スポに 関口

一同:(爆笑)

こゆき:ナベツネでしょ、これ!

関口:C-C-Bのことでした~。

倒産の学習塾や朧月 村上

北大路:これいいね。もうちょっと明るい季語にしてもいい時もあるけど、これはこれで全然あっていい。

こゆき:花満開だとどう?

龍:塾長がね、持ち逃げしてパチンコやっちゃったとかさ(笑)。

北大路:これリアルですね。倒産の学習塾って、いま子ども減ってるしね。これはすごいいい句です。僕たちは現代の世の中を詠むっていうのが一つテーマなんで、こういう句はやっぱり絶賛したいですね。

村上:これ僕です。やりました!

北大路:屍派確定です。来月いつだっけ?(笑)

ほかに、村上さんが出した句は以下の通りでした。

・倒れずにK・Oされる春嵐
・倒木の穴を覗けば初夏の風

>「フルーツっぽい句」がお題の屍派句会・第2ラウンドはこちら