「中国行ってレンコン1本1万円で売ってきなさい」。民俗学の研究と同時に、茨城の実家のレンコン農家で働いていた著者は、先輩研究者の言葉に30代で奮起。国内で1本5千円と、相場の5倍の値段で売ることを思い立つ。
「伝統」とは「過去に意図的に創られたものである」との民俗学の理論をあてはめ、祖父より前から続く家業なので「大正15年創業」の「老舗」と名乗って販売に着手した。
最初は不振だったが、展示商談会への出展、自身のテレビ出演などあらゆる手段を駆使。幸運や関係者との出会いもあって、やがて注文を断るほどの「バカ売れ」に。ただ、本書でマーケティングの方法が伝授されるわけではない。
「農業は資本主義の最底辺」。著者は子供時代から、苦労の割には報われることの少ない農業にマイナスイメージを抱き、家業を隠した。それを農家の「哀(かな)しみ」と表現し、「全ての農業者に共通した背景」ではないかという。
父親のつくるレンコンは一級品だったが、品質だけでは商品力は不十分で、「伝統」を創造し、超破格の値づけをしたら注目されブランド化した。これは現代消費社会への農家からのリベンジではないか。そんな読後感が残る一冊。=朝日新聞2019年6月15日掲載
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