セミ、まじめに働く。しかし、人間と違うため、差別を受ける。イジメにあう。そんな日常が続く。定年の日の、上司の冷たい一言。かわいそう。読者はそう思う。セミは人間世界からオサラバする。せいせいする。絵本は終盤。でもここからが本書の見せ場だ。読者もまた、セミから突き放されるからだ。我々は気づく。自分が、安易に同情し、型にはまったマジメな「読者」を演じてきただけだったことに。
著者は人間ばなれした観察眼と描写力で、日常では見えない世界を描いてきた。登場するキャラクターは信じられないほど愛らしく(『エリック』)、また時に、ちっともわからないのにすごく面白い(『ロスト・シング』)。著者の描く絵は言葉よりも雄弁であり、言葉はひかえめながら堂々としている。言葉なんかなくて平気な時もある(『アライバル』)。読者は、彼の前で受け身でいることはできない。知らず、飛翔(ひしょう)力を磨いてしまう。絵本を閉じてから開く、想像力の羽を。=朝日新聞2019年6月15日掲載
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