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「体罰と戦争」書評 「時には必要」から脱するために

評者: 斎藤美奈子 / 朝⽇新聞掲載:2019年06月22日
体罰と戦争 人類のふたつの不名誉な伝統 著者:森田 ゆり 出版社:かもがわ出版 ジャンル:社会・時事

ISBN: 9784780309867
発売⽇: 2019/04/20
サイズ: 20cm/261p

体罰と戦争 人類のふたつの不名誉な伝統 [著]森田ゆり

 教師の体罰は学校教育法で禁じられている。19日には保護者の体罰禁止を盛り込んだ改正児童福祉法などが参院で可決、成立した。一歩前進とはいえ「体罰も時には必要」と考える親や教師はまだ少なくない。
 でもね、もし体罰が戦争と同類だったら? 両者の共通点はいくつもある。
 ★大義名分がある。
 手に負えない子どもだからやむなく折檻する。ならず者国家だからやむなく空爆する。似てますよね。
 ★死傷し、トラウマに苦しむのはいつも弱者だ。
 2016年度に教師の体罰で被害を受けた児童生徒は1401人。一方、20世紀の戦争で殺された1億6000万人の8割は民間人。米国が「テロとの戦い」を宣言した9・11後には21万人の民間人が直接的な戦闘で、80万人以上が戦争の間接的な影響で命を落とした。これが深刻な人権侵害でなくて何なのか。
 共通点はまだあります。体罰は(戦争も)、怒りの感情のはけ口にすぎず、即効性があるため他の解決法を考えなくなり、必ずエスカレートし、その恐怖心は周囲にも伝染する。〈死傷に至ったほどの深刻な身体的虐待ケースの多くはこのような体罰がエスカレートした結果です〉
 おそろしいのは、体罰が子どもの心身に与える深刻な影響である。体罰を受けた子は「自分が悪かったのだ」と思い込み「もうしません」と口にする。だがそれは反省ではなく恐怖によるもので、親への恐怖心は何十年も尾を引き、時に他者への暴力に向かう。
 各国の研究や実際に起きた事件まで豊富な例を引きながら、著者は体罰が(戦争も)いかに理不尽な行為かを説く。旧日本軍で横行した体罰は兵士に大きなトラウマを残した。強さを求める男性文化とも体罰は不可分な関係にある。
 ★「時には必要」と思っている限りなくならない。
 それも共通点。だけど解決への道はある。じつは実践と希望の書、なのだ。
    ◇
もりた・ゆり 作家、エンパワメント・センター主宰。著書に『子どもと暴力』『しつけと体罰』など。