1. HOME
  2. コラム
  3. マンガ今昔物語
  4. タイトルの破壊力! 異色の殺し屋が魅せる たべ・こーじ「ピンサロスナイパー」(第103回)

タイトルの破壊力! 異色の殺し屋が魅せる たべ・こーじ「ピンサロスナイパー」(第103回)

 2017年から「週刊漫画ゴラク」(日本文芸社)で不定期連載している『ピンサロスナイパー』(たべ・こーじ)。何といっても、一度目にしたら忘れられないタイトルの破壊力は他に類を見ない!
 主人公の美女・階堂ユキは昼はOL、夜はピンサロ「パラダイスイヴ」で働いている。ここまでならよくあるが、ユキはさらにスナイパー(狙撃手・殺し屋)という第三の顔まで持っている。単行本のあとがきによると、当初は『ピンサロから墓場まで』というタイトルを予定していたが、「ピンサロ嬢でスナイパーだから、ピンサロスナイパーでいいじゃあねえかっ!」という編集長の英断でこのタイトルになったらしい。この“ざっかけない”設定は「漫画ゴラク」ならではだろう。ユキに殺しを依頼したい客は「パラダイスイヴ」で彼女を指名し、必ずサービスを受けながら事情を話さなければならない。物語は基本的に一話完結で、毎回文字通りの「サービス」シーンに続き、殺し屋としての華麗かつ迫力あるアクションが展開される。

 彼女のような「義賊の殺し屋」を描いた作品に、1981年から「週刊少年ジャンプ」(集英社)で連載された『ブラック・エンジェルズ』(平松伸二)があった。自転車で全国を旅するフリーターの青年・雪藤洋士はユキと同じく、法で裁けない「外道」を人知れず暗殺する。誰かに頼まれるのではなく、みずからの義侠心だけで制裁を下す雪藤に対して、ユキはあくまでも依頼を受けて殺しを行うわけだが、なぜか報酬については触れられない。OLもピンサロ嬢もしているユキは金のために殺人をしているわけではないだろう。ビンボーそうな依頼人も多いし、タダで仕事を引き受けている可能性も高い。依頼人は男女を問わず「必ずサービスを受けなければいけない」という本作最大の謎ルールは、もしかするとピンサロの料金で殺しまで引き受けてやるという意味なのかもしれない(いや、本当は編集部の意向だろうけど)。

 作者のたべ・こーじは実に30年のキャリアを持つ、知る人ぞ知る成人マンガ家だ。濃厚でスタイリッシュな絵柄は本作の大きな魅力であり、「パクリと思われてもいいから、好きなものを描こう」(単行本あとがきより)との熱い思いから、東映ハードボイルド映画などのオマージュがたっぷり詰め込まれている。全編にみなぎる“昭和感”もオーバー40世代には嬉しい。
 気になるのは良くも悪くもストーリーが単調なことだが、『ブラック・エンジェルズ』のように「ホワイトエンジェル」を登場させるわけにもいかないだろう。5月に発売された第2巻では、「5年前に恋人を殺された」というユキの過去の一端が明かされた。とりあえず、彼女が「ピンサロスナイパー」になった経緯を語ってほしい。『ブラック・エンジェルズ』の松田には「いんだよ、細けえ事は!!」と一蹴されそうだが。