「ブルーウルスス」に見る女子格闘マンガの新展開(第153回)
2025年の「今年の漢字」第1位には「熊」が選ばれた。そこで今回は「熊のような女子高生」が活躍する異色作を取り上げたい。昨年6月から「マンガワン」(小学館)で連載している『ブルーウルスス』(原作:サンドロビッチ・ヤバ子、作画:土井那羽)だ。
ウルススとはラテン語で熊のこと。181cm82kgという体格を持つ天木星奈(あまき・せいな)は不良女子の巣窟である獄門女子高校に入学し、プロレス技で凶悪なヤンキー女子たちを次々とぶちのめす。その様子を相棒の雪村まやがスマホで撮影し、ストリートファイト動画としてSNSに上げていく。目的は女子プロレスラーだった母を殺した相手を探すためだった――。脇役ならともかく、「熊のような女子高生」が主人公というのは珍しい。
ストリートファイトをする女子高生といえば、1996年から「ヤングアニマル」(白泉社)で連載した『エアマスター』(柴田ヨクサル)を思い出す人も多いかもしれない。かつて一流の女子体操選手だった相川摩季は、体操を応用した空中殺法で無敵を誇るストリートファイターとなる。「180cmを超える長身」「高校1年生」「プロ格闘家の娘」「圧倒的な戦闘力」など、共通している要素も少なくない。
しかし同じ長身といっても、摩季は細身のモデル体型で、熊のように分厚い筋肉を持つ星奈とは似ても似つかない。『エアマスター』は基本的にコメディーであり、乾いたタッチで描かれるバトルシーンもリアルなものではなく、当時流行していた対戦型格闘ゲームを思わせた。そもそもスレンダーな美少女が華麗な空中殺法で屈強な男たちをなぎ倒すというのはフィクションならではの設定で、現実にはあり得ないファンタジーだろう。
一方、男性がほとんど登場しない『ブルーウルスス』では、星奈が戦う相手は女性だけ。迫力ある星奈の体格は強さに説得力をもたらし、血が飛び散るバトルシーンは痛みが伝わってきそうなリアリティーがある。原作者のサンドロビッチ・ヤバ子は『ケンガンアシュラ』(作画:だろめおん)や『一勝千金』(作画:MAAM、いずれも小学館)で知られる格闘マンガの第一人者であり、作画の土井那羽が描く筋肉も生々しい。
不良が集まる高校で主人公が頭角を現すという『なんと孫六』(さだやす圭)や『クローズ』(高橋ヒロシ)のような正統派ヤンキーマンガの伝統を踏まえながら、ケンカの動画をSNSに上げるというのが新しい。ドロップキックやアックスボンバーといった個々の技だけに留まらず、「基本的に相手の攻撃をかわさない」星奈のスタイルが実にプロレス的だ。観客の存在を前提とした派手なプロレス技は、同じく人に見せることで意味を持つSNSと相性がいいことに気づかされた。
ヤンキーマンガであり、格闘マンガであるが、それだけではない。「星奈の母は誰に殺されたのか」「全面的に星奈に協力しているまやの真意は」など、ミステリー的な要素もいくつかあって飽きさせない。非武闘派を公言する不良少女まや、星奈の姉でグラビアアイドルの天木ふみ奈、2年生の最大派閥を率いる宮花はる、など主要な人物はいずれもキャラが立っている。
今月発売される第2巻では、女子高生プロレスラーの「マッドガール琴」が参戦。ますます目が離せない展開になってきた。