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川田進さん「天空の聖域ラルンガル」インタビュー 信仰をみつめ秘境に通う

大阪工業大学教授の川田進さん=古谷浩一撮影

 ラルンガルとは何か。

 タイトルだけ聞いて分かる人は、かなりの通に違いない。中国四川省の深い山奥にあるチベット仏教の宗教学校「ラルン五明(ごみょう)仏学院」のこと。その秘境にたどり着いたことがある外国人は極めて限られている。

 川田さんは大学で中国語を学び、その後、中国現代文学を専攻。チベットやその文化に関心を持ち、標高3千~4千メートルの東チベットに足を運ぶようになった。「現代中国社会の異界」ともいうべき地に初めて到達したのは2001年の冬だった。

 青い空の下、山の斜面一面に赤くぬられた建物が重なり合って広がっていた。いずれも師の教えを求め、この地に住み込んで学ぶ僧侶たちの住居だ。何とも神秘的な宗教都市。

 仏画を見に四川省を旅した時、1人の僧侶と出会い言葉を交わした。「中国で仏教を学びたいなら、ラルンガルが最適の場である」と熱弁をふるう姿に心ひかれたという。

 これを機に「東チベットの宗教と政治」が研究テーマになった。宗教は共産党政権によって厳しく管理され、外国人がラルンガルに近づくこと自体が、政治的に敏感な行為とされる。簡単なことではなかった。

 それでも「私は変わり者なのでしょう。他人がやらないことをやってみたいと思う性格です」。

 チベット仏教はチベット語の世界ではあるが、調査では中国語が役に立ったという。なぜならばラルンガルを運営しているのはニンマ派の僧侶。ダライ・ラマ14世の宗派であるゲルク派とは違い、ニンマ派はかなり柔軟に漢族を受け入れ、中国語でも教えを説いていたからだ。豊かになった中国では、多くの漢族も信仰に心の安らぎを求めているのだ。

 現地で見たこと聞いたことを細かく記録する定点観測を続ける。その現場にこだわる研究姿勢に敬意を表したい。(文・写真 論説委員・古谷浩一)=朝日新聞2019年7月20日掲載