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究極の大掃除 柴崎友香

 引っ越しをした。東京に移って十四年で五軒目。最初はほぼ二年ごとに引っ越していたが、四軒目の家は七年近く、初めて長期間住んだ。

 長く住むと、それだけモノが溜(た)まる。片付けるのも、捨てるのも、人生において苦手なことの上位を占めている。二年ごとに引っ越しをしていたとき、これは最強の大掃除の手段だと気づいた。引っ越しでもなければ、引き出しや押し入れの奥のモノまですべて出して分別するなんてできない。

 しかも、現代社会には、荷造りを全部依頼するという素晴らしいサービスがある。プロフェッショナルの女性たちがやってきて、どうにもならないと途方に暮れていた荷物を、今回もたった六時間ですべて段ボールに詰めてくれた。

 これを、引っ越し先で開ける。プロのみなさんは、どんながらくたも丁寧に梱包(こんぽう)してくれている。箱を開け、薄紙を開いて、そこにあるモノを見た瞬間。なんでわたしこんなもん置いてたんやろ、手間をかけて梱包してもらって申し訳ない……。生活の中にあると馴染(なじ)みすぎていたものが、いったん引き離されることによって、必要なものか、そうでないものか、いきなり判断がつく。

 荷ほどきのサービスもあって引っ越し前の部屋を再現する完璧さは驚愕(きょうがく)するほどらしいのだが(ソファの上の新聞の位置も同じだったと噂〈うわさ〉に聞いた)、この分別の作業のためにわたしは引っ越し、自分で片付ける。

 やっぱり三年ごとぐらいに引っ越さなあかんな、でも日本の賃貸は初期費用かかるし、あっ、もしかして荷造りだけ頼んだらええんちゃうん! と検索すると、果たして荷造りのみやってくれるサービスを発見。しかも引っ越し業でなく、整理や片付けを手伝う会社だった。次はこれや、と自分の思いつきに感心しつつ、部屋を埋める段ボールを開けていたら、ごみも大量に出るし普段から片付けるのがいちばんやんな……、という当然の結論に。わかってる、それは、わかっているのです。=朝日新聞2019年7月24日掲載