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「会計と犯罪」書評 特捜検察の冤罪構造あぶり出す

評者: 間宮陽介 / 朝⽇新聞掲載:2019年08月03日
会計と犯罪 郵便不正から日産ゴーン事件まで 著者:細野祐二 出版社:岩波書店 ジャンル:経営・ビジネス

ISBN: 9784000613415
発売⽇: 2019/05/30
サイズ: 20cm/279,5p

会計と犯罪 郵便不正から日産ゴーン事件まで [著]細野祐二

 エンロンやワールドコムの不正会計問題も、オリンパスや東芝の粉飾決算事件も、現場は企業の「会計」だ。この点は日産ゴーン事件の端緒となった有価証券報告書虚偽記載も変わりない。

 本書は「犯罪会計学」を構想する著者による、経済事件簿である。郵便不正、虚偽公文書、証拠改竄の3事件が本書の中心をなし、そのまた核に位置するのが虚偽公文書事件である。別名、厚労省の村木(厚子)事件ーーといえば、あああれかと思い出す人は多いだろう。

 自称障害者団体、通販会社、広告会社の3者が結託して、障害者団体のための低料金郵便制度を悪用したのが郵便不正事件である。大網をかけてみたものの、特捜部の網にかかったのは郵便法違反の微罪ばかり。そこで狙ったのが、次の虚偽公文書事件である。

 実体のない障害者団体と知りながら村木課長(当時)は部下に命じて証明書を作成させた。それを依頼したのは某政治家。このようなシナリオで村木氏とその部下を逮捕したものの、政治家のアリバイやら空白の8日間の矛盾やらでシナリオは崩れる。そればかりか、部下方から押収したフロッピーディスクのデータ改竄を行ったかどで、逆に担当検事が逮捕され有罪判決を受けるというオチがつく。

 犯罪会計学は社会派会計学といっていい。特捜検察の冤罪構造をあぶり出そうとする本書にも、会計を社会の文脈で捉えるその特徴が表れている。捜査と起訴の2権を併せもち、密室で作られた調書に高い証拠性が付与される。このような特権を背景に郵便不正事件が虚偽公文書事件に拡大していくのである。

 経済犯罪だけでなく、企業行動の理論と実際を理解するためにも、会計学の知識は必須である。学生の頃読んだサムエルソンの経済学教科書には、会計学に関する付論があり、貸借対照表や損益計算書などの解説がなされていた。この程度の知識でも経済の現実を読む一助となるのである。

    ◇
ほその・ゆうじ 1853年生まれ。会計評論家。粉飾決算事件の共謀容疑で起訴され、無実を主張したが有罪確定。