4年前の話題書『帳簿の世界史』(ジェイコブ・ソール著)は「権力とは財布を握ること」と喝破して、新しい読者層を会計の世界へと誘った。本書も、豊富なネタとうんちくによって会計と株式会社の物語をつむいで、新たなファンを獲得することに成功したらしい。
GE、マッキンゼー、JPモルガン、デュポン――。現代の巨大企業の始祖たちの試みが、いかに会計改革とかかわりがあったか、という歴史観はあまりなじみがなく新鮮だ。他方ではビートルズとマイケル・ジャクソンのエピソードから、M&Aと投資価値という現代的テーマを浮かび上がらせる。登場人物が多彩で読者をあきさせない。
ただ、本書のヒットの理由は読み物としてのおもしろさだけではないだろう。簿記と株式会社を切り口に歴史を俯瞰(ふかん)してみると、なるほど、と気づかされることが少なくないのだ。
まず、会計の歴史とは、粉飾と対策のいたちごっこの歴史だった、ということである。
これは現在進行形のテーマと言っていい。東芝を経営危機に追い込んだ米企業買収と巨額損失。日産自動車のゴーン前会長逮捕につながった報酬隠し。最近、世を騒がせた企業事件の多くは会計不正問題でもあった。
考えてみれば「会計」と「歴史」はもともと、ビジネス街の書店で、スペースたっぷりの人気コーナーである。専門家や好事家だけでなく、幅広い読者層をつかんできた。
おそらくは、カネ勘定のなんたるかを知ることも、人間の興亡の足跡を確認することも、いずれも「知っておくべき何か大事なもの」だという感覚を多くの読者が抱いているからではなかろうか。
銀行と簿記の起源はイタリアだった。今や財政不安と銀行危機にさいなまれている国だ。株式会社制度も、企業会計も、市場経済が作りあげた究極のシステムだと考えられがちだが、実はまだまだ欠陥だらけの未完成品にすぎないということか。
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日本経済新聞出版社・2376円=6刷5万部。18年9月刊行。担当編集者は「30代以上の幅広い世代に読まれている。歴史を通じて物事を見ることに関心がある層に刺さったのでは」。=朝日新聞2019年4月6日掲載
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