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『林彪事件と習近平』『中国が世界を動かした「1968」』書評 文革通して現在の強権性に迫る

評者: 呉座勇一 / 朝⽇新聞掲載:2019年08月03日
林彪事件と習近平 中国の権力闘争、その深層 (筑摩選書) 著者:古谷 浩一 出版社:筑摩書房 ジャンル:新書・選書・ブックレット

ISBN: 9784480016829
発売⽇: 2019/05/14
サイズ: 19cm/252p

中国が世界を動かした「1968」 著者:楊海英 出版社:藤原書店 ジャンル:歴史・地理・民俗

ISBN: 9784865782189
発売⽇: 2019/04/26
サイズ: 20cm/319p

林彪事件と習近平 中国の権力構造、その深層 [著]古谷浩一/中国が世界を動かした「1968」 [著]楊海英

 6月4日は、第二次天安門事件30周年だった。民主化を求める学生らを武力弾圧したことを、中国共産党は今なお正当化している。現在進行中の香港の民主化運動に対しても強圧的だ。

 それどころか習近平国家主席への個人崇拝を進める中国の現状は、文化大革命への回帰すら思わせる。そのためだろうか、近年は文革に関する出版物が目立つ。

 古谷浩一『林彪事件と習近平』は、文革の転換点とも言える林彪事件を通して習近平政治の本質に迫る。毛沢東の後継者と目されていた林彪が毛沢東暗殺を企てたという中国共産党のショッキングな発表は、国内外に存在した文革への幻想を打ち砕いた。本書は、林彪失脚の端緒となった1970年の廬山会議で何があったのか、ソ連への亡命を図った林彪を乗せた専用機はなぜ墜落したのか、といった数々の謎に取り組む。

 単なる謎解き本に留まらず、当時を知る関係者や毛沢東主義の若者に取材し、文革とは何だったのかを語らせているのが興味深い。

 中国共産党内の権力闘争として文革を論じる前掲書と対照的に、楊海英編『中国が世界を動かした「1968」』は、中国をめぐる国際環境が文革に与えた影響、そして文革が外国に与えた影響を重視する。馬場公彦は中国主導の世界革命が頓挫し中国が国際的に孤立したことが文革の発動につながったと指摘する。金野純はパリコミューンをモデルとした上海コミューンの挫折に文革の変質を見る。劉燕子は文革を賛美した西側の知識人を批判し、文革に抗した中国の知識人の勇気に現代的意義を見出す。西田慎は西ドイツの毛沢東主義新左翼の動向を追い、梅﨑透はアメリカの黒人解放運動・女性解放運動と文革の関係を探る。

 文革中のモンゴル人虐殺を告発する楊海英が示唆するように、中国共産党の強権性は文革時と本質的に異ならない。文革はまだ終わっていないのだ。

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ふるや・こういち 1966年生まれ。朝日新聞論説委員▽よう・かいえい 1964年生まれ。静岡大教授(歴史人類学)。