大矢博子が薦める文庫この新刊!
- 『会津執権の栄誉』 佐藤巖太郎著 文春文庫 702円
- 『戦国十二刻 終わりのとき』 木下昌輝著 光文社文庫 648円
- 『優しき悪霊 溝猫(どぶねこ)長屋 祠(ほこら)之怪』 輪渡颯介著 講談社文庫 691円
お盆間近。滅んだ者たちに思いをはせる3作を。
(1)四百年近く続いた奥州の名門・会津芦名家。だが戦国末期に男系の嫡流(ちゃくりゅう)が途絶え、佐竹家から婿養子をとったことで家中に軋轢(あつれき)が生まれる……。芦名家が摺上原(すりあげはら)の戦いで伊達に滅ぼされるまでを、さまざまな身分や立場の者を通して描いた連作短編集。個々の短編で描かれる武士たちの葛藤と覚悟も見事だが、最終章に滅ぼした側である伊達の話を置いたのが効果的。戦国という時代が持つ残酷さと虚無が浮かび上がる。
(2)豊臣秀頼、伊達輝宗、今川義元、山本勘助、足利義輝、徳川家康。歴史に名を残す6人の武将の死に際にテーマを絞り、〈最期の24時間〉をカウントダウン方式で描いた短編集である。短い時間に凝縮されたドラマと、史実の中に仕掛けられたフィクションの冴(さ)えが読みどころ。特に大坂の陣で落命した豊臣秀頼を描く「お拾い様」が出色だ。「山本勘助の正体」は長年その実在が議論されてきた勘助の謎に、意外な視点から挑んでいる。いずれも著者の企(たくら)みに驚くこと請け合いだ。
(3)夏といえば怪談。あるきっかけで幽霊を見たり感じたりできるようになった少年4人組のシリーズ第2弾である。今回彼らが出会ったのは、商家の番頭の幽霊。その幽霊は何かを伝えたいようだが……。いたずら盛りの少年たちや説教好きの大家、トラブルメーカーのお嬢さんなど人物が魅力的。幽霊が手がかりをくれる謎解きも愉快だ。怖い話が苦手な人も楽しめる、ほのぼの怪談。=朝日新聞2019年8月3日掲載