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虫と本にのめりこんだ少年時代がいまの原点に 「あけてみよう かがくのとびら展」で福岡伸一さんが基調講演

文:日下淳子、写真:斉藤順子

 「私は少年時代、本の虫であり、虫の虫でした」と語る福岡伸一さん。ベストセラー『生物と無生物のあいだ』の著者であり、生物学者の福岡さんは、好きなものの話をするとき、少し嬉しそうになる。「虫が大好きで、アゲハチョウの卵を採ってきては育てていました。チョウが生まれる過程を見て、生命は何て美しいんだろうと思いました。こういったことが私の原点になっています」

 虫のオタクだった少年時代、母親が買ってくれた顕微鏡に、福岡さんはどんどんのめりこんでいった。「素晴らしいものを見ると、その源流から河口、すべてを見たくなってしまうのがオタクというものなんです」と笑う福岡さん。今度は顕微鏡のルーツを知りたいと、図書館に通い詰めた。

 「今はグーグル先生がすぐに教えてくれる時代ですが、その頃は近くの公立図書館で調べるしかなかった。でも本というのは検索ができないので、知りたいことにすぐに辿り着けないでしょう。でもその道草があることが大事なんです。通い詰めるうちに、図書館の本は日本十進分類で整理されていて、私が見つけたいのは400番台と、480番台だということがわかってきました」

 その辺りの本が並んでいる所は人が少なくて、本は見放題。秘密の花園のようだったと福岡さんは言う。並んでいる題名に惹かれて手に取ってみる本もあり、やっとのことで見つけた『微生物の狩人』(岩波文庫)で、顕微鏡を自作したレーウェンフックに行きついたそう。レーウェンフックは科学者でもなかったのに、さまざまなものを顕微鏡で見て生物学上の大発見に行きついた。自分もこういうふうになりたい、研究者になりたい、と思ったという。

 そんなふうに、ものごとの成り立ちを探りたいという福岡さんの心に刺さった科学絵本が、福音館書店から刊行されていた『かわ』。加古里子(かこさとし)さんが、川の源流から河口までを絵巻物のように描いた本だ。ページをまたいでもとぎれることなく、左から右へひたすら川の様子が描かれていく。『かわ』は、それが生まれて終わるまでのすべてを知りたいと思う福岡さんの心をワクワクさせてくれた。

 また、3~5歳向けの「ちいさなかがくのとも」の『よるのおきゃくさま』も、大好きな本のひとつだという。「おきゃくさま」とは田舎のおばあちゃんの家にやってくる虫たちなのだが、ガラスにとまった虫たちを、お腹から観察している様子が素晴らしい。それを見つめる女の子には、間違いなく「センス・オブ・ワンダー」が溢れていると、福岡さんは言う。

 「センス・オブ・ワンダー」は、アメリカの生物学者レイチェル・カーソンの著書から引用したもので、子どもなら誰しも持っている、神秘さや不思議さに目を見張る感性のことである。「チョウの幼虫と、さなぎになって成虫になったチョウを比べてみると、とても同じ生き物だとは思えないでしょう。それぐらいすごいことが起きている、これってなんなんだ! と思ったことが、私の『センス・オブ・ワンダー』であり、生物学者になった原点です。私は教育者として、子どもたちが持つそういう『センス・オブ・ワンダー』を大切にしてほしいというメッセージを、伝えていきたいですね。いま好きなことが、実は君が大人になったときに君を支えていくものなんだよ、と」

 講演の最後に、福岡さんからの自然を愛する子どもたちへのメッセージ「ナチュラリスト宣言」が読み上げられ、舞台に映し出された。会場では、この言葉を写し取る人が多く、福岡さんの降壇後も、画面を見つめて何度も読み直す観客の姿が印象的だった。

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調べる。行ってみる。確かめる。また調べる。可能性を考える。実験してみる。失われてしまったものに思いを馳せる。耳をすませる。目を凝らす。風に吹かれる。そのひとつひとつが、君に世界の記述のしかたを教える。私は、たまたま虫好きが嵩じて生物学者になったけれど、今、君が好きなことがそのまま職業に通じる必要は全くないんだ。大切なのは、何かひとつ好きなことがあること、そしてその好きなことがずっと好きであり続けられること。その旅程は驚くほど豊かで、君を一瞬たりともあきさせることがない。それは静かに君を励ましつづける。最後の最後まで励ましつづける。

福岡伸一
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