――「不幸じゃなければ、幸福だと言い張ることだってできる」と考える悲観的な七草と、「真っ直ぐで、正しく、凛々しい」を体現する理想主義者の真辺を演じた感想を教えてください。
横浜流星(以下、横浜):七草ほどではないけど、僕自身も悲観的なところがあるし、感情をあまり表に出さずに押さえ込む方なので、似ているなと思う部分も多かったです。ただ、七草は「受け」の芝居が多いので、真辺と会話のキャッチボールがあまりできないことが、演じる上で難しかったです。感情を抑え込む分、素直に相手から発信されるお芝居を、素直に返すことができなかったんですよ。1回、自分の心の中に落とし込んでから話さないといけなかったので、真辺が感情的になればなるほど、こっちもそれに対して素直な感情で返したくなったけど、そこをぐっと堪えるのが大変でした。
飯豊まりえ(以下、飯豊):私も割と理想主義でこだわりが強いので、その辺は真辺とのギャップを感じませんでした。でも、私は七草と目線を合わせることが中々出来なかったんです。横浜さんは昔から空手をやっているから、演じている時も「どしっ」と構えているんですけど、私はつい目をそらしてしまうことが多くて。だけど、それでは「真っすぐで凛々しい」真辺ではないし、柳(明菜)監督からも「横浜さんは何でも受け止めてくれるから、バンバン思いをぶつけて」と言われていました。理論的で、難しいことばかり言ってくる七草に対して、真辺は「それはこうだよ」とか、断定的に返すことが多いのですが、感情を表に出さない七草と真正面から向き合うことが難しかったです。
――原作での七草と真辺のセリフは、日常会話としてそのまま話すには少し独特な言い回しもありましたが、お二人が演じるにあたって、何か気をつけたことはありますか?
横浜:七草のセリフは考えさせられる言葉が多くて、最初は「この言い方はちょっと分かりにくいから、そのままセリフとして言うのはどうなのかな」と思っていたんです。だけど、芝居をしている中で会話として自然と生まれてくる言葉だと感じたので、そのまま話しても大丈夫だと思いました。作品の世界観を知るために原作を読みましたが、内容を知りすぎてしまうのもどうかな、と思い、僕はあまり気にしすぎないようにしましたね。それよりも、この作品が持つ独特の世界観をどうリアルに見せるかが難しかったです。
飯豊:そんなに原作を読みこまない方が、役を演じる上で良かったりすることもありますよね。セリフも、普通の会話としては変わっているけど、その詩的な言葉を話していく中で、自分自身の真辺としての感情が高まっていく感覚がありました。自然と感情がセリフにのっかっていくようで、不思議でした。
――真辺が真っすぐに「正しくあろう」と光輝くことができるのも、陰で支えている七草がいるからこそ。二人はまるで、光と影のような関係で、決して相容れることはないけれど、七草の真辺に対する思いは、憧れを超えた崇高さを感じました。
横浜:真辺に対する思いは、七草を演じる上ですごく難しかったけど、とても大切にしたいことでした。映画を観た人によっては、恋愛感情っぽくとれるかもしれないんですが、七草にとって真辺は理想であり、すごく大きな存在なので、その思いは「恋愛」とは差をつけなければいけないと思っていました。
飯豊:七草は、真辺のことを自分の手で汚したくないという思いがあるんですよね。でも、そこまでだれかに思われるって、一人の人間としてすごいことだと思うし、とても素敵ですよね。
――本作を拝見して、人が成長していく過程では、得るものがたくさんあると同時に、失うものもあることを改めて感じたのですが、お二人がこの作品で気づいたことや得たものはありますか?
横浜:たくさんありすぎて、考えれば考えるほど分からなくなるんですよね。ただ、この作品を通して、自分と向き合う時間をすごく大切にするようになりました。
飯豊:私は感情的なシーンが割と多くて緊張していたんですけど、監督から「目や首のあたりで演技を止めないで、ここ(胸のあたり)で感じて。自分の心に落とし込んでお芝居してみて」とずっと言われていました。この作品で演技の仕方や役との向き合い方を学ばせていただき、役者として、もう一段階成長できたと思います。
――撮影が行われたのは昨年と伺いました。お二人とも、この1年の間に次々と話題作への出演が続き、インスタのフォロワー数も一気に増えたそうですね。
飯豊:この作品の撮影中に、横浜さんから「インスタのフォロワーってどうやったら増えるの?」って聞かれたので「大丈夫だよ、まだみんなに良さが見えてないだけだよ!」って言った次の日くらいに、横浜さんのフォロワーがボーンと増えていて。
横浜:相談したね(笑)。その頃はたしか、フォロワー数が10万人くらいだったんだよね。
飯豊:私も悩んでいた頃で、二人で「大丈夫かな?」って話していたんですが、横浜さんは今ではもう何の心配もなくなっちゃうくらいの活躍ぶりなので、自分のことのように嬉しいです。
――飯豊さんのSNSでは、読書に関する記事をよくお見かけしますが、ぜひ、おすすめの一冊を教えてください。
飯豊:私は小説よりもエッセイが好きで、中でもALS(筋萎縮性側索硬化症)患者の武藤将胤(まさつね)さんが書いた『KEEP MOVING 限界を作らない生き方』は、私のバイブルみたいな本なんです。自分の不得意なところに目を向けるのではなく、得意な所を伸ばしていくほうが楽しいし、自分の目標につながる生き方だっていうことを再確認させてもらいました。読んだら涙が止まらなくなるけど、同時に元気ももらえる内容なので、ぜひ、多くの人に読んでほしいと思っている本です。
――横浜さんのお好きなジャンルは何でしょう?
横浜:僕はミステリーが好きで、湊かなえさんの『告白』がきっかけで、他の作品も読むようになりました。湊さんの作品は、ミステリーの要素だけじゃなく、人間の本質と言うか、表と裏のドロドロしたところをすごく上手に描かれているんですよ。いつか湊さんの作品の映像化に出させていただきたいなと思っているんですが、すでに実写化されている作品が多いので、これから何か見つけないと、ですね(笑)。読書は、自分にちゃんと時間を使えているすごく大事な時間だなと思います。少し落ち着いたら、ゆっくりと読書する時間を作りたいです。