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彩瀬まるさん「森があふれる」インタビュー  男女の権力関係、幻想的に問う

彩瀬まるさん

 物語は中堅作家・埜渡(のわたり)徹也をとりまく男性編集者、埜渡の不倫相手、女性編集者ら視点人物を替えながらつづる中編小説。埜渡は妻の琉生(るい)との関係を下地にした小説が出世作となっていた。主体的で楽しそうにセックスする女性「涙(るい)」として描かれた妻に多くの読者が引かれていた。そんな妻はある日、夫の不倫を知り、植物の種を飲んで発芽した。夫の小説の苗床になっていた妻が、植物の苗床になり、森になる。夫は森になった妻を再び小説の題材にする。「人の肌は何かが生えたり、水分を吸収したり、土に似ているなと思っていたことから、想を得ました」

 長年にわたってヌードの被写体だった女性が、無報酬でヌード撮影を強要されたことなどをつづった文章も、作品につながったという。「服を脱がせて撮影することは、それに値するだけの対価や相互認識があって撮られたと思っていた。でも、現実は違った。芸術は危うさも併せ持つものだと思い知りました」

 彩瀬さんが10代の頃に読んでいた漫画は、女性が酔っ払って、見知らぬ人とラブホテルで寝ていた場面がよくあったという。「男の人は犯罪ですよね。こうした作品が『ラブコメ』とされて、読者に受け入れられれば、間違った方向に偏見を生んでしまう」

 一方で、男性の描写には緊張感を持って臨んだという。「登場人物の男性が持つ偏見は、私自身の男性に対する偏見でもある。登場人物のような言動を本当にするのか、熟考しました」。幻想的な描写のなかで、現実世界で起きていることを突き詰めた一冊になった。(宮田裕介)