「ヤービの深い秋」
寄宿学校のウタドリ先生が湖に浮かべたボートの上でふわふわした毛につつまれたハリネズミのように小さいふしぎな生きものヤービと出会います。そこからお互いの交流がはじまり物語は展開していきます。
秋も深まり、冬じたくに忙しいヤービたちでしたが、グラン・グランパ・ヤービがややこし森でみつけたというユメミダケというきのこを探す冒険に出発します。同じころウタドリ先生も生徒のギンドロが見つけたというふしぎな手紙に導かれややこし森に向かうことに。
本書はマッドガイド・ウォーターシリーズの第2弾で小さい生きものヤービたちとの世界を精密にいきいきと描いた味わい深いファンタジーです。再びヤービに会えてうれしい!(ちいさいおうち書店店長 越高一夫さん)
「丘のうえのいっぽんの木に」
小さな丘に立っている1本の大きなエノキの木と、そこに寄り添うオオムラサキを通して、豊かな自然の中での生き物の共生が描かれています。里山とその中で暮らすものたちは、すべてモノクロームの切り絵で表現されているのですが、簡潔な白黒の世界の先に、色鮮やかな命が光り輝いて広がっていくのが、本当に見事です。自然界も人間たちも、決して独りよがりでは生きられない。みんながお互いの特性を理解し、肩を寄せ合い暮らしていけたらとても幸せなことですよね。(丸善丸の内本店児童書担当 兼森理恵さん)
「うっかりおじさん」
お出かけ前のおじさんが、探しものを「みなかった?」と読者に向かって尋ねます。絵本の中に誘い込まれ、めがねを渡すと見せかけて自分がかけてみたり(視界がぼやけて楽しい)、口ひげをおじさんの鼻の頭につけて「そこじゃないぞ!」と叱られたり。やっとしたくができたと思ったら……うっかりにもほどがある! ゆかいな大人相手にいたずらと対話の応酬。たたみかける、どんでん返し。見返しまで発見が尽きず、スウェーデン発の絵本のおじさんと何度でも遊びたくなります。(絵本評論家・作家 広松由希子さん)=朝日新聞2019年9月28日掲載