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岡崎京子「リバーズ・エッジ」など 坂井豊貴さんが選ぶ平成のベスト本5冊

 (1)岡崎京子著『リバーズ・エッジ』(宝島社、1994年刊) バブル崩壊後の一時期、文化の爛熟(らんじゅく)があった。豊かさと退廃とが混じる少年少女の日常と、それが風船のように「ぱちん」とはじけるさまを岡崎は描き切る。「平坦(へいたん)な戦場で僕らが生き延びること」をテーマとする、切実な作品。

 (2)藤田省三著『全体主義の時代経験』(みすず書房、95年刊) 安逸な消費文化に流される人間を「製品咀嚼(そしゃく)器」と呼ぶ藤田の代表作。Amazonの「おすすめ」に流される消費が当たり前になったいま読むと、あらためてその洞察の鋭さに舌を巻く。

 (3)水村美苗著『日本語が亡(ほろ)びるとき』(筑摩書房、2008年刊) 平成は、知識が英語で生産され、蓄積されていく「英語の時代」であった。世界が英語化していく中で、他言語では表現できない、言語の固有性を慈しむ作家の、日本語による日本語への哀悼文。

 (4)村上春樹著『ねじまき鳥クロニクル』(全3巻、新潮社、1994~95年刊) すでにあの戦争は終わったことなのだろうか。実は時間とは一直線に流れてはおらず、複数のものが同時に進行しているのではないか。昭和の戦時を、平成期に同時に進行させて「いまこの世界」を立ち上げた、村上文学の最高峰。

 (5)湯浅誠著『反貧困』(岩波新書、2008年刊) 貧困への社会的関心を高めた一冊。日本は一度落ちると上がれない「すべり台社会」だと指摘し、自己責任論を否定した。時代は令和に変わったが、課題はいまも残ったままだ。=朝日新聞2019年10月2日掲載